2014年1月3日(金)

カワハギ――肝和えの刺し身が絶品。だから肝が大きい養殖物も高値に

dancyu 2012年12月号

福地享子=文
【つくり方】
カワハギを肝と身に分ける。肝はさっと熱湯に通し、氷水につけて締める。身は薄いそぎ切りにして、醤油とすだちの果汁を半々に割ったものに、1時間ほど漬ける。小さく切った肝を添えて盛り合わせ、肝をつぶして和えながら食べる。

サンドペーパーのようにざらついた皮。だから必ず皮を剥いで使う。その特徴をとって、カワハギ。

皮はペロリンと簡単にむける。下からなまっちろい肌。またの名をバクチ魚という。時代劇で、放蕩息子が賭場に誘われ、あげくの果てがスッテンテン。身ぐるみ剥がれて、寒空にハックション、といったとこ。大当たりの名だわい、と皮を剥ぎながらいつも思う。可哀相というより、なんか滑稽。と、思うのは、寸づまりの丸顔でおちょぼ口という愛嬌顔のせいもある。顔までお人好しの坊ちゃん、放蕩息子なんだから。

いくぶん面長のヤツは、ウマヅラハギといい、皮を剥いでしまうと区別がつきにくいところから、ときにカワハギの代用品として使われることも。築地では「ウマヅラ」などとぞんざいに呼ばれ、ちょっとお気の毒。おいしいのに。

カワハギは、身をとるか、肝をとるかで、旬が違う。身がいいのは夏場。しかし、カワハギが珍重されるのは、オレンジ色っぽくトロリ脂がのった肝。この肝が大きくなるのが冬に向かってであり、10月から翌年の3月ころまでが、築地では売れる時期となる。

肝は、刺し身といっしょに食べるのが王道。裏ごしして、醤油とわさびを合わせた肝醤油にすることが多い。薄造りにした身に濃厚な肝をソースにして口に入れる。フグにも匹敵する食感と上品な味わいの白身に、ねっとりとからみついた肝醤油。目眩(めまい)するほどに美味。こんな食べ方ができるのはカワハギだけだ。

そのためには、鮮度が命。そこで、築地入荷のカワハギは、活魚でやってくることが多い。天然物もあるけど、獲れる量がめっきり減って、今は養殖物が幅をきかせている。長崎県、大分県、和歌山県、三重県と、養殖がさかんな地では、たいていカワハギが重要な品目となっている。養殖のマダイやハマチ、カンパチなどが大衆的な価格になってしまった現在、カワハギは養殖とはいえ値が張る存在だからだ。おまけに天然物より肝が大きいので、けっこうな人気である。

カワハギをおろすには、肝をいためないように、というのが最大のポイントだ。頭のてっぺんにある角の後ろから包丁を途中まで入れ、あとは身と頭をそろそろっと引っ張ると、頭のほうに肝がくっついてくる。肝を慎重にはずす。このとき、肝にくっついてる黒いにが玉(胆のう)を潰してしまうと、肝が苦くなってしまう。ここらが他の魚とは違う。

おろしたら、肝を添えた煮つけもいい。肝絶品。フライやムニエルも。でも、カワハギに限っては、年に数度の贅沢で、やはり刺し身にしたくなる。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。