2013年12月13日(金)

ヤマイモ――千葉の名産「多古のやまと芋」は強い粘りの根性芋

dancyu 2011年11月号

福地享子=文
【つくり方】
やまと芋をすりおろし、中温の油でさっと揚げる。表面はきつね色、中はトロリ生っぽいのが、いい揚げ加減。塩とすだちを搾って食べる。だしを添えて、揚げだし風に食べるもよし。

築地で料理人さんのご指名がかかる山芋といえば「多古のやまと芋」。すりおろせば、箸でちぎれるほど強い粘りのある根性芋で、きめは細かく風味があり、とご指名なるほどのやまと芋である。

しかし、関西の方にやまと芋ならこっちが本場と叱られるかしらん。実は関西、関東どっちにもやまと芋と称するものはあり、関東ではいちょう芋を、関西ではゲンコツ形、通称つくね芋をやまと芋と呼んでいるのだ。ホラ、関東では天かすがのっているのがたぬき。大阪では、あぶらげがのっているそばがたぬき、というみたいに、東と西、重箱のすみ的日常の常識の違いは、いろいろあるのだ。

その「多古のやまと芋」に会ってきた。多古とは地名。千葉県房総半島の北東部、成田空港にほど近い長閑(のどか)な町である。やまと芋畑は、収穫にはまだ間があり、ハート形の緑濃い葉で覆われていた。葉はやがて黄色に変わり、枯れはてる11月から春にかけてが収穫期となる。

専業栽培農家、JA多古町園芸部大和芋部会の部長椎名豊さんたちにお話をうかがったが、印象的だったのは栽培の苦労。「気まま芋と呼んでます」と語っていたが、彼らは形などおかまいなしで育つ。換金作物としては、これはかなりのマイナス要素だ。値がいいのは、皮がむきやすい棒状やバチ形だが、そうは問屋がおろさぬわけ。夏に雨が多いと、いい形になる度合いが大きいので、日照りに灌水は欠かせないが、度が過ぎると、色が悪くなる。掘るにしても、皮が薄く、もろいので、最終的には手掘りである。

さらに種芋で植えつけるが、じゃが芋が種芋1個からぞろぞろと芋をつけるのと違い、ひとつしかできない。はなはだコストパフォーマンスとやらが悪い芋なのだ。お値段がいいのは、そうした理由から。でも、その価値はありますよね。

やまと芋は、やまかけやとろろ汁はもちろんのことだけど、粘りの強さを利用した私の十八番は、おろしたはしから小さく揚げるだけ。高尾山の麓のそば屋のオバチャンは、これにだしを添えて揚げだしにしてくれるのだが、私は塩とすだちを搾って熱々を頬張ることにしている。

多古町で覚えてきたのは、おろして、みそ汁に箸でちぎって落とすというもの。ちぎったままの形で、熱い汁にモヨモヨと浮かぶ様子やふわりとした口あたりは、いかにもあの町らしい長閑さである。

もうひとつ、この粘りをいかすとなると、ザクザク切った芋とだし少々でミキサーにかけるのだ。グイーンとやってるうち、芋の粘りが空気をいっぱいに含んでフワフワのムース状に。てごわき根性芋も、はかなき泡の食感となり、焼酎のまたとないお相手となるのだ。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。