7月末、厚生労働省が、新型インフルエンザが大流行して従業員の40%が欠勤すると、医薬品や病床数が不足し、停電が起き、銀行ATMが一時停止するというシミュレーションを発表した。また、頻発する地震に対し、防災の日を前に警報システムの強化・見直しも行われている。原油高、食糧危機、新型狂牛病など想定されるリスク情報はさまざまに氾濫しているのだが、実際のところ私たちはどのように対応したらよいのだろうか。

『最悪の事故が起こるまで人は何をしていたのか』では、チェルノブイリ原発事故、強度不足による建物の崩落、肥料工場の爆発事故など60余件の実例を、科学技術とヒューマンエラーとのかかわりの中でとらえている。

なかでも将来起こりうる可能性を探り、事前に対応しておくリスク管理の成功例は参考になる。ジェット旅客機DC-10の設計ミスで3つの操縦系統が隣接していることに気づいたパイロットが、仮に引火した場合何が起きるかをシミュレーターを使った猛練習によって検証し、事故下での操縦手法を身につけた。飛行中にこの事故が実際に起きてしまい、無事着陸に成功した実話を精査している。

IBMがブラジルに建設した工場では、入居作業中、ふとしたことで屋根がたわんでいることに気づいた現地スタッフが本社に連絡。技術調査員が構造上危険な建物であると判断し、経営層が工場閉鎖の決断を下して事なきを得たという。いかなる場合も、起きてしまってから想定外の出来事だったという言い訳をしても通用しないのである。

このようなリスクを数字によって検証するモデルを紹介してくれるのが、『定量分析実践講座』だ。リスクのもとで絶えず変化する不確実性のもとでの意思決定のプロセスを説いている。たとえば、新店舗を出店する場合、起こりうる全ケースを考え、最悪の場合でも利益を出せるか否かを検証したうえで決定する必要がある。その間の論理思考を、誰でもわかる平易な数式を使って組み立てていく。

日本の取締役会は社長のひと言や「あうん」の呼吸で物事が決まるのに対し、米国の役員は経営を監視する職務を負うがゆえに数字による根拠を示した説明責任がある。不確実性が高まる中で、日本の経営陣やマネジメント層にもリスクを管理したうえでの意思決定が迫られているのだ。

旧日本軍をモデルに組織論の観点から意思決定を検証したのが『失敗の本質』である。日本陸海軍が太平洋戦争で敗れるに至る経緯を米国と比較する。ここでも、日本軍の決断プロセスは、「空気」(ムード)が支配したことが解明されている。戦術についても、一点に先鋭化しすぎていた。日本軍はゼロ戦や戦艦大和に国運をかけるかのように戦ったが、米国は現況を大局的に把握する眼をもち、戦局によって臨機応変に対処した。ゼロ戦で負けてもほかで勝てばよいという思想である。インパール作戦では遅々とした兵站輸送が日本軍の敗因となった。必要なときに一挙にヒト・モノ・カネを投入する米国の思考との違いは現在でも変わらないように思う。

(篠田 達=構成)