購入へのスイッチが入りそうな瞬間である。こんな顧客の心の微妙な変化を読み取るには、やはり「目配り」が大切なのだ。ただし商品によっては数万円という高額ラインなだけに、なかなか決断できない人も多い。

「そういうときは他の人からの最後のひと押しを待っている状態だと思うんですね。『私に必要でしょうか』とおっしゃられる方もいらっしゃいますが、そこで『いいものだから使ってください』と押し付けるようなことはしません。その商品がいかにお客様の肌にマッチするか、その方にとってのメリットを申し上げることにしています」

BCの役割は、購入へのスイッチを無理に押させるのではなく、顧客自身が自然に押す手助けをすることなのだ。

土嶋さんは接客にあたり、もう1つ、心がけていることがあるという。

「高級ブランドなので、身構えてこられるお客様も多いんですね。そんなときはまず緊張をといてもらうために、お客様の何かいいところをひとつ拾ってお伝えするようにしています。『素敵なお召し物ですね』とか『お肌がきれいですね』など。人は褒められるとうれしいもの。こんなちょっとした会話から心を開いてくださるんです」

今では、人のいいところを一瞬で探すことができるようになったと土嶋さん。高いコミュニケーション能力は仕事だけでなく、プライベートの人間関係でも大きく役立っているという。

顧客にもさまざまなタイプがいるのだから、セールスにもたった1つの王道はない。不可欠なのは「相手に合わせる」力だ。一見遠回りのようだが、これこそが顧客の共感を引き出し、決断につなげる最も確実な必殺技といえそうだ。

●資生堂・土嶋昌代さんの「売り上げ増につながる」必殺技
本人も気づいてない悩みを整理してあげる
(澁谷高晴=撮影)
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