そして収入を切らさない方法として、会社は絶対に辞めないこと。

「完璧でなくても、先につなげる意識で仕事する。実績ゼロから頑張ってそれでダメだったらいいじゃん、でいいと思います」(吉住さん)

孤立しないよう、人間関係のネットワークをつくっておくことも大事だ。1人で抱えないほうが精神的に楽だし、オープンに構えていれば情報を得ることもできる。周りに言えなければ、患者会や相談支援室に行く方法もある。

また友人や職場などの近い人間ががんになる可能性もある。そういう状況に対しても心構えを持っておきたい。

「がんは緩やかに治るもの、と理解してほしいですね。手術すれば治ったと思うかもしれませんが、最初は非常にきつい。僕の場合、普通に動けるのに1カ月、まあまあ働けるのに3カ月、治療前の体力まで戻るのに1年かかりました。治療が終わったのにまた休んでる、と思われたら使うほうも使われるほうも気まずいんです。それと理解がないのは辛いけれど、特別扱いも辛い。普通が1番です。今までと変わらず自分の居場所があると再確認できる。それが支えになります」(天野さん)

おひとり様のがんは、決して対岸の火事ではない。親と同居の独身者は親が亡くなれば1人だ。夫婦でも配偶者ががんに対する理解がなければ精神的には孤立する。誰もが潜在的なおひとり様ということを自覚するべきだ。『おとうと』の終盤では、いよいよ具合が悪くなった鉄郎を、吟子が見舞いに訪れる。鉄郎が「夜中に目が覚めるのが怖い。泊まってくれないか」と懇願すると、吟子は快諾する。しかし病気で大きな声を出せないから、目が覚めたら合図が送れるよう、2人は互いの手をピンクのリボンで結ぶ。我々の社会が必要としているのも、人と人をつなぐリボンであるに違いない。

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