グローバリズムに踊る世界8都市の現状をリポートしたNHKスペシャル「沸騰都市」。リーマン・ショック後に放映した続編の成果を加え、ディレクターたちの手で単行本化したのがこの本だ。

「たとえばイスタンブールはドバイみたいな都市とは違って地味なので、人物やストーリー勝負だと思っていました。でも行ったことがないので、事前情報はあまりない。資料の読み込みはほどほどにして、すぐに現場へ飛びました」

イスタンブールとシンガポールの回を担当した高木徹氏が振り返る。取材は下見2週間、撮影2カ月の長丁場だ。その間、現地在住のリサーチャーとともに、イスタンブールの「いま」を象徴する人物を探しては接触し、これだと思えば密着した。

そうやって探し出した「人物」たちが、本書でもいきいきと描写されている。たとえば番組でもひときわ目を引いたトルコ経団連の美人会長や、イスラム服を製造する新興企業の実力者。高木氏の筆にかかると、彼らの生き方、信条、センスの違いが手に取るようにわかるのだ。

それにしても「NHK取材班」ないし「NHKスペシャル取材班」を名乗る書き手はこれまでに数々の話題作を著し、『グーグル革命の衝撃』など記憶に残るベストセラーも少なくない。

不思議なのは、番組づくりを本業とするディレクターたちがごく自然に一般向けの本を書きあげてしまうことだ。書くことが本業の新聞記者と比べてみても、NHK取材班の文章は明らかにわかりやすいし、ストーリーテリングも巧みである。

なぜNHKには「書ける」人材がそろうのか。

NHKではビデオ編集のようなエンジニア仕事を除くと、番組づくりに関するほとんどすべてをディレクターが担当する。こうした「しんどい作業」(高木氏)を繰り返すなかで、49分の番組を飽きずに見てもらうための構成力が身につくのだ。

NHKスペシャル取材班はいま、4月放送開始の「アフリカンドリーム」の準備を進めている。アフリカにもグローバル経済の波が及び、凄惨な内戦を経たルワンダは「アフリカのシンガポール」を目指して復興中だ。このシリーズもまた、興味深い書物を生み出しそうだ。

※すべて雑誌掲載当時