Q国と地方を合わせて1200兆円を超える債務残高。国民1人当たりに換算すると940万円強にものぼり、その削減はまったなしの状況だ。それにもかかわらず、歳出の削減は一向に進まず、国民の問題意識の高まりもいま一つの感がある。どうしてそうなってしまうのか。

人間は予測していなかった事態が起こると、とっさに身近にあるリスクを避けてしまう。いまそのリスクをとっておけば、長期的には利益が生じるとわかっていても、目先の損失を我慢できない。こうしたことを行動経済学では「近視眼的損失回避行動」と呼んでいる。

ハイキングに行って食べかけのおにぎりを落としそうになり、あわてて反対の手で掴んだ。しかし、残りのおにぎりが3つ入っていた袋を落としてしまい、結局おにぎりを1つしか食べることができなかったというようなことが、近視眼的損失回避行動に当たる。

最近、意識してか無意識かは別として、多くの政治家がこの近視眼的損失回避行動の理屈を利用しているように思えてならない。選挙活動の際には、有権者に耳当たりのよい公約を並べ立てる。しかし、政策運営の段階に移ると、わけのわからない理屈をつけて、その公約を反故にすることが多いからだ。

では近視眼的損失回避行動に走らないようにしていくためには、一体どうしたらいいのだろう。

最も大切なことは、近視眼的損失回避行動というコンセプトを頭のなかにインプットしておくことである。そして、何か判断や意思決定を求められたら、目先のリスクやコストに目をつぶるのではなく、長期的な利益をとることが大切だと自分に言い聞かせながら物事を判断したり、意思決定していくように常に心がけていくのだ。

人間は経済学でいう「合理的な人間」では決してない。そのことはこれまで見てきた行動経済学のコンセプトからも明らかであろう。たえずそれらを頭の片隅に置いておき、冷静に判断することが意思決定で過ちをおかさないようにする一番の近道なのである。