Qランチで同じ600円のカレーライスにしようか、カツ丼にしようか迷った揚げ句、前回食べたカレーライスにした。しかし、先に出てきたカツ丼を同僚が実においしそうに食べ始めた。そして「カツ丼にしておけばよかったかな」と内心後悔しつつ口にしたカレーライスは、前回あれほどおいしいと感じていたはずなのに、さほどおいしくは感じなかった。これは一体どういうことなのだろう。

私たちの日常生活ではいろいろと迷った結果、「これだ」と自信を持って意思決定をしたのにもかかわらず、期待と違った結果が出てしまうことが多い。そこで「こんなはずではなかった」と後悔の念にさいなまれることになる。そうした意思決定の結果もたらされた心理的な不協和、不快感、葛藤や後悔のことなどを行動経済学では「認知的不協和」と呼んでいる。このケースでは「カツ丼にしておけばよかったかな」という思いが、その認知的不協和に当たる。

そして、この心理的な不協和を回避しようと、私たちは自分が行った意思決定をサポートするような要素や情報を探し始める。たとえば、「カツ丼はカロリーが高くて健康によくない」といった理屈を考えて自分を納得させ、自分が下した意思決定を正当化しようとするものなのだ。そうした認知的不協和の度合いは意思決定に対するコミットメント(思い入れ)に比例することが多い。

ここで図の、経営者が認知的不協和に陥るケースについて考えてみたい。通常、会社の予算は限られていて、すべてのプロジェクトに無尽蔵に資金を投入できない。そこで経営者はどのプロジェクトに資金を投じれば、会社の利益を最も大きくできるかを考える。

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プロジェクト追加投資における経営者の認知的不協和

プロジェクトAに追加投資した場合は、「1000万円+1500万円」で2500万円の利益が出る。しかし、プロジェクトBで1000万円の損失が出ているので会社全体としてトータル1500万円の利益にとどまる。一方、プロジェクトBに追加投資をしたら、「1200万円-1000万円」で赤字だった事業を200万円の黒字に転換することができる。ただし、会社トータルの利益はプロジェクトAの1000万円の利益と足して1200万円にしかならない。

どう考えてみても冷静に判断すれば、プロジェクトAに追加投資するはずなのだが、意外なことにプロジェクトBへの追加投資を選択してしまう経営者が少なくない。実はそこに認知的不協和が影響している。

事業の赤字は経営者にとっての恥であり、経営者は心のなかで「いつか自分の手で黒字にしてみせる」と考えているものなのだ。その事業へのコミットメントが大きければ大きいほどこの思いは強まる。そして、黒字化の糸口が見えた途端、会社全体の利益に目が向かずに目先の収益改善に手を出してしまうことになるわけである。