何度も、何度も、しつこく指導せよ

人間は、それほど物覚えがよくないので、部下に対してせっかく指導しても、すぐに元通り、ということはよくある。だからこそ、部下に改めてもらいたい点があれば、何度も、何度も、それこそ部下の耳にタコができるくらいしつこく繰り返して指導しなければならない。

1回だけ言って諭して、それですぐに改めてくれるような部下などいない。そんなに優秀な部下がいるなら、だれかの部下になどならず、自分でビジネスを始めているであろう。

部下は、物覚えが悪いのが相場なのである。特に、気配りやらマナーというのは、“習慣化した行動”であるために、一朝一夕に改められる種類のものではないのである。

「人と食事をするときには、相手の分までオーダーしてあげるのがいいよ。相手が『これにしよう』と言ったのを覚えていて、キミがまとめてウエーターに注文してあげるんだよ。1人ひとりがオーダーするのは、スマートじゃないからね」と教えてあげたとする。

しかし、1回だけ言っても、部下は理解したつもりにはなっても、ほんとうの意味では理解できないだろう。そこで時期を変えながら、しつこく指導してあげるのである。そのうち部下も相手のオーダーを全部覚えて、「こちらにはコーヒー、そちらの方には紅茶、そして私にはカフェオレをください」とウエーターにすらすらとオーダーを伝えられるようになる。自然にそういう行為ができるようになるまでは、忍耐強く指導しつづけるのがポイントである。

空気の読めない部下を叱ってはいけない。彼らは、ただ、だれからも間違いを指摘されてこなかっただけなのである。人間は、間違いを指摘されて、はじめてそれを改めることができるのであり、ただそういう機会がなかったために、今のところは、空気が読めないだけなのである。

上司であるあなたが根気強く、それこそ徹底的に指導していれば、早晩、空気が読めるようになる。どんな部下でもそうである。部下が空気を読めないのは、あくまでも「練習不足」なだけなのであり、あなたの指導次第で、いくらでも伸びていける。空気を読むことに、生まれ持った才能などない。練習すれば、だれでもそれなりに伸びる能力が、空気を読む能力である。

一番まずいのは、「どうせ他人なんだから」と言って、指導を投げだしてしまうことである。上司であるあなたが見捨ててしまったら、だれがその部下の指導をしてくれるというのだろうか。あなた以外の人は、「あんなヤツと自分は関係がない」ということで、空気の読めない同僚には見向きもしないはずである。指導してあげられるのは、やはり直属の上司である自分だけなのだ、と思ってあげてほしい。

子育てもそうであるが、親が子供を見放してしまったら、子供はどうすることもできないのである。「親はなくとも、子は育つ」というが、あれはウソである。親がいなければ、子供は育たない。

上司と部下の関係もそうで、「上司はいなくとも、部下は勝手に育っていく」ということを言う人がいるが、まったくのウソである。優れた先輩、上司の指導があって、はじめて部下も伸びていけるのである。決して、放ったらかしにしてはいけない。

また、最後になってしまったが、「空気を読む技術」に終わりはない。だからこそ、部下を指導する一方で、自分自身に対しても、もっと厳しく「空気を読む技術」に磨きをかけることを肝に銘じてほしい。“空気を読めない部下”も多いが、“空気が読めない上司”も、世の中にはうんざりするくらい多いのである。部下は、あなたに指導してもらえるが、上司であるあなたには指導してくれる人はいない。自分で自分を律していかなければ、「あの上司って、空気が読めないよね」と部下に陰口を叩かれることになるだろう。そんなことのないようにくれぐれも注意してほしい。