その後、08年に社長になって半年後、リーマンショックが襲いかかったときには、私はトップとして、過去の教訓を生かすことができた。01年の危機がトラウマになってしまうと、何ごとにも及び腰になって丸紅の将来も消えかねない。基本的に投資は抑えるものの、丸紅の成長に必ず寄与する得意分野や有望分野は、攻め続けようと全社員に語りかけた。

何を攻め、何から退くか。そんなバランス感覚を大事にしたからこそ、リーマンショックのときには大きな傷を残さずに、成長も確保できたのだろう。そして今、世の中では欧州発の危機が騒がれているが、私はリーマンショックほどの深刻な危機とは捉えていない。

私は物事を考えるうえで、若いときから3つの軸を大切にしている。(1)ぶれない判断力、(2)勇気ある決断、(3)スピード感を持った行動力だ。「ぶれない」と言っても、多岐にわたる事業の1つ1つの中身まで詳細がわかるのは不可能に近い。それでもぶれない判断力を維持するには、現場とのコミュニケーションを続けるしかない。そして最終的に勇気ある決断を下すのだ。

例えば損切りをするにも勇気がいる。「もう少し我慢」と先延ばししているうちに巨額の損につながってしまう。こうした損が積み重なって、結果として大損したのが10年前の危機だった。今は徹底的に損を切り、最小限で食い止める。それができるのも、常に状況を見ているからこそだ。

もちろん、スピードも大変重要なので、走りながら考える。私は常々「80点の企画書で行動しろ」と言っている。80点程度まで企画を詰めて、やるかどうか決断するのだ。あとは走りながら、顧客や取引先と一緒に100点に近づける。最初から100点満点の企画はありえない。総合商社のビジネスは、完璧主義にこだわっていたらライバルに先を越されてしまう。80点自体も自分1人でできるわけがなく、現場を回って80点に持っていくのだ。

アイデアが出てこなければ、“動く”ことで何らかの糸口がみえてくることもある。人に会って話を聞く。私が普段からマスコミや金融の関係者と話をするのが大好きなのは、多方面に目を向けて話を聞く姿勢こそが、突破口を生み出すと確信しているからだ。