一方、発泡酒は迷走した。その理由は、この分野で独走するキリンを意識しすぎたためかもしれない。06年11月には、濃厚でガッチリした味を追求したキリンの「円熟」をライバルに見立てた「贅沢日和」を、翌07年2月に入ると、「本生」との相乗効果を狙って、「本生ドラフト」を発売する。だが、いずれもキリンの牙城は崩せなかった。「本生」本来のファンを戸惑わせただけでなく、顧客離れを誘う。

新商品発売とカテゴリー別業界内シェアの推移

新商品発売とカテゴリー別業界内シェアの推移

その中で消費者に支持されたのが糖質ゼロを標榜した「スタイルフリー」という機能性発泡酒だった。グリーンを主体にしたパッケージは、キリンの「淡麗グリーンラベル」を彷彿とさせる。アサヒのロゴの下に書かれた“糖質0”は、消費者の意表を突いた。

「健康訴求型の発泡酒は、以前から考えとしてはありました。と同時に売れないだろうという先入観もずーっとあった。でも、飲んでみると、それなりにライトで、モニターのブラインドテストの調査結果も悪くないんです。そこで、糖質ゼロという付加価値を前面に出し、そこに消費者を誘導しようとしたのです」(池田)

池田の目論見は当たり、08年には1000万ケースを超す商品に育つ。すると、他社も追随した。「キリンゼロ」、「ゼロナマ」(サントリー)、「ビバライフ」(サッポロ)である。

これが、いわゆる“ゼロ戦争”だ。アサヒの先行優位は揺るがなかった。むしろ、4社競っての宣伝効果は糖質ゼロの認知度を飛躍的に高める。規模こそ違えど、1980年代後半に「スーパードライ」が巻き起こした“ドライ戦争”の再現にほかならない。当時も他社は、なりふりかまわず「ドライ」を冠したビールを発売した。まさに、これこそがアサヒビールの勝ちパターンといえる。(文中敬称略)

(津藤文生=撮影)