ポストクライシスのブランド構築4カ条

 それでは今後はどのようにブランドを築いていくべきか、特にビジョナリーなブランドとして育てていくかについての示唆をいくつか挙げてみたい。

【1】ブランドの「価値観」と「目的」を可視化する

 これまでは、ブランドが「何をもっていて」「何をしてくれるのか」についてコミュニケーションしてゆくことが重要であった。しかし、これからは「ひと」としてのブランドのあり方、すなわちこのブランドはいったい「なにもの」でどんな「価値観」をもっているかについて示していかねばならない。さらには、「何のために」このブランドが存在しているのかについて語っていく必要がある。創業者がブランドの顔となっている場合、特に多くのネット系、IT系ブランドがそうであるが、かなりこの点は可視化されていると言える。このブランドの「顔づくり」は往々にして日本企業が苦手としていることであるが、とりわけ海外に進出する場合この「なにもの」で「何のため」のブランドであるかを可視化する必要が重要で、経営トップの役割も大きいと言える。

【2】「信頼」こそ全て

『スペンド・シフト』の第6章「失われた信頼を取り戻す」では、ザッポスの経営哲学・企業文化やそれに基づく顧客との関係作りを例に挙げて、いかに「信頼」というものがブランドにとって重要であるかを熱く語っている。ブランドに対する「信頼」の低下という現象も、残念ながら震災を機に始まったものではない。BAVの調査では、ブランド全体への信頼もずっと下降傾向であることが示されている。この信頼とは単に「壊れにくい」とか「安全」といった基本的なことが揺らいでいるということよりも、情報の海の中で消費者が本当に欲しい情報がむしろ得られなくなっているという皮肉な現象からきている部分も大きいと考えられる。今後はますます、マーケティング3.0で提唱されているコミュニティの一員として、「長くおつきあいできる」ための信頼を得ることが重要になるといえる。そのためには、ザッポスのように、いかにその企業文化を従業員が体現するかということも重要な鍵となるのである。