相手の土俵で話を引き出す「どういうこと?」

今回は、茂木健一郎さんという脳科学者がそこにいる。その研究者の力を借りるならば、豊富な実験データや知識だろう。たとえば、この“読書後の時間”を手掛かりに「頭の中でこのグジュグジュとしている状態は、科学的にどういうこと?」と、まずは自分からおしゃべりをする。その中から問題を提議して問いかけることで、相手も意見を話しやすくなるというわけだ。

茂木さん(茂)「デフォルトモード・ネットワークといって、アイドリングしていることで脳が活動する回路があって、これが想像力や発想力をもたらすんです。禅でも“歩行禅”といって、頭をからっぽにして歩く修業があります」
阿川さん(阿)「これで脳というのは活性化されるの?」
「そうです。ボクも歩いています」
「それは、何分くらいで活性化されるの?」
「ボクの場合は30分くらいを目安にしていますが」
「歩くということが脳を活性化させるのにいいんじゃないかと常々思っていたけど」
「デフォルトモード・ネットワークを活性化させるのに適したスピードがあるんですね」
「人間の歩くスピードで移動することが、人間にとって大切である。それってなんだろうと思っていたらこういうことだったんだ」

話を進めながら、「それってこういうことだよ」と相手が話したくなるような文脈に持ち込み、相手の専門知識やデータを引き出す。そして「~って?」「~とはこういうこと?」と相手が言ったことを“オウム返し”に問いかけに使うことで、さらに話の完成度を高めていく。

「自分の話を聞いてほしくない人はいない」と阿川さんは著書に書かれているけれど、それを気持ちよく引き出すには、真摯な態度で「なるほど」と“上手にうなずく”ことが大切だ。これで雑誌やテレビで見かけるような“専門家に話を聞いたクオリティ”の情報を引き出していくのである。

まずは話の流れから自分で問題を提議して、相手が話しやすくすることが大切。そして、仕事でヒアリングしたり話をした相手から引き出したデータなり知識なりは、その場の話の流れの中でも、あるいは蓄えておいてでも、自分の話で生かしてみたい。こうすることで、経験談にすぎない話や持論に裏付けができて信頼性も高まり、よりおもしろい話へとバージョンアップできそうだ。

[参考資料]
阿川佐和子著『聞く力』(2012, 文藝春秋社)
*1 阿川佐和子さん:テレビの司会者やキャスターとして活躍しながら、数々の文学賞を受賞。雑誌のインタビュアーとしても20 年以上活躍し、著書『聞く力』(文藝春秋社)がミリオンセラーになっている。
*2 茂木健一郎さん:株式会社ソニーコンピュータサイエンス研究所上級研究員、慶應義塾大学大学院システムデザイン・マネジメント研究科特任教授、脳科学者。『脳と仮想』(新潮社)で小林秀雄賞受賞ほか。

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