昨年8月に表面化したサブプライムローン問題。以来、世界経済はじわじわと弱体化しつつあった。しかし、アメリカ証券業界第4位のリーマン・ブラザーズ証券の破綻をきっかけに、世界は恐慌前夜の様相を呈している。風雲急を告げる世界経済。日本は、アメリカは、世界はいったいどうなってしまうのか。

そこで、戦後最大ともいわれる今回の世界経済危機を肌で感じ取っている外資系、邦銀など金融機関関係者に集まってもらって緊急座談会を実施した。

profile-------------
外資A
米系の大手証券に勤務。1990年代前半に大手邦銀から転職。現在の職場は3社目。年齢は40代半ば。
外資B
7年前に国内大手証券から欧州系銀行を経て、米系の大手証券に転職。年齢は30代後半。
外資C
国内大手証券、米系の大手証券を経て、米系投資ファンド勤務。年齢は40代前半。
邦銀D
国内大手銀行勤務。ニューヨーク駐在の経験あり。年齢は30代後半。
――リーマン破綻以降の世界の金融市場の動きについて、まずは率直な感想を聞かせてください。

【外資B】ある程度、予想していたなどというマーケット関係者もいましたが、ほんの一握りだったのではないでしょうか。私自身は、まさかつぶれるとは思ってもいませんでした。リーマンを買収する先がなかなかみつからなかったのですが、それでも、ぎりぎりでFRB(連邦準備制度理事会)が救済するだろう。それが世界の金融市場関係者の予想だったと思います。その予想に反したからこそ、投資家は失望し、株価が急落したんです。

【邦銀D】まっさきに思い出したのは、97年の山一証券破綻です。2600億円もの簿外債務が発覚して破綻したわけですが、リーマンについても、財務内容は相当に腐っているのではと疑われていた。しかし、同じ破綻でも、山一のときとは違って、世界の金融市場に与える影響はけた違いに大きい。当初、ポールソン(財務長官)やバーナンキ(FRB議長)、ガイトナー(ニューヨーク連邦銀行総裁)は、リーマンの破綻の影響をかなり軽視していたようですね。

【外資A】90年代後半の日本もそうでしたが、マーケットは次々に“危ない金融機関”を探し出しては、株を売り浴びせる。リーマンの次にマーケットが狙い打ちしたのが、経営危機にあったAIG(アメリカン・インターナショナル・グループ)でした。リーマンの破綻で、「too big to fail(大きすぎてつぶせない)」となった。ならば、AIGはどうなのかということをマーケットは行動で示した。

AIGは、サブプライム関連の金融商品を大量に保有しているだけでなく、想定元本4000億ドルといわれるCDS(クレジット・デフォルト・スワップ/クレジットデリバティブの一種)を保証しています。CDSは世界の金融機関で取引されている。一言でいえば、AIGがつぶれると、CDS保証の後ろ盾を失い、世界の金融はメルトダウンを起こし、その影響は、29年の世界大恐慌以上の破壊力を起こす引き金になる。ハリソン・フォードの主演映画ではありませんが、まさに『今そこにある危機』でした。

【外資C】さすがにアメリカの金融当局も慌てて救済に動いた。FRBが850億ドルもの信用供与枠を設定したことで、なんとか破綻は免れました。90年代後半に、日本が金融危機に見舞われた際に、アメリカは公的資金を投入して、不良債権を処理しろと盛んにいってきましたが、いざアメリカがそうなったときに、自分自身がそれを躊躇したということです。

その後にすったもんだはありましたが、不良債権の買い取りなどを柱にした金融安定化法が可決しました。この点、日本と違って対応は素早いですね。