「大事なのは商売ではない、というのが僕の考えです。『思い』を伝え、共有することが大切です。いまはたまたまファッションを扱っていますが、本来の目的は世界を平和にしたい、愛を大切にしたいという思いを共有することです」

そのために同社は、次のような仕掛けを用意している。

たとえばメッセージ配信サービスの「ZOZOARIGATO」。ゾゾタウンのサイト上で誰かへの「ありがとう」を自由に投稿・閲覧できるサービスだ。1投稿あたり10円が寄付される。

あるいは、商品とともに届けられる手づくり感覚のフリーペーパー。前澤氏が愛犬と戯れている姿が載っていたり、社員が登場して環境問題に関する考えを述べていたりする。

このような工夫をこらすことで、顧客と会社(もしくは前澤氏個人や社員)との距離がぐっと縮まり、顧客がついに「友達」になる瞬間が訪れる。たとえばフリーペーパーに付けたメッセージ用紙は回収率がいい。そこにはゾゾタウンへの要望のほか、私信のようにフレンドリーな文章が並ぶという。

もちろん社員同士も成果を競い合うライバルではなく「友達」や「仲間」。同社の給与体系はいまどき珍しい年功序列型で、ボーナスは全社員同額だ。学生が集まる会社説明会では、事業内容を説明するよりも、前澤氏自身の価値観を語る時間のほうが圧倒的に長いという。

ふんわりと笑いながら前澤氏が語る。

「僕自身、楽しんで働きたいんですよ。人を蹴落として勝つよりも、人の役に立ち、お互い幸せな気持ちになるほうが重要じゃないですか。仕事もプライベートも充実してこそ、人生は豊かになるはずだし、そうした生き方がスマートでしょう? 成果主義に背を向けて13年、こういう考え方でやってきましたが、おかげさまで業績は上がっています」

たしかにそのとおりなのだ。