パナソニック会長 中村邦夫氏
――やはり、空洞化は止まらない?

【中村】活路はあります。微細加工の技術です。微細とは、ナノ(10億分の1)に代表される世界で、そこの処理技術では日本勢が断トツです。ナノの世界は、電機に限らず、遺伝子研究などに大きく広がっています。

東大寺の南大門の仁王像は、いまから約800年前、運慶が当時の彫刻家集団を使ってわずか69日間で完成させています。あれにも、微細加工の技が発揮されています。仁王像の小さい見本をつくり、それを分解し、各部分を参考に彫刻師たちがその拡大形を同時並行でつくっていき、最後に合体すると、ぴったり合った。まさに微細加工の源流です。日本の中小企業には、微細加工の分野で「世界でオンリーワン」と言える技術を擁しているところが、少なくありません。公的にそうした技術をデータベース化し、知的財産として守ってあげ、活用したい企業に有料で提供する仕組みも必要です。

政府は国民の将来不安を解消すべく、「社会保障と税の一体改革」を進めようとしている。大事業に追われ、「ものづくり」の再生など成長戦略の具体化が遅れているように映る。だが、経済連携の進展による内外の競争条件の同一化と「将来への安心」の実現による投資や消費の拡大こそ、成長への最大の足がかりだ。
――最後に、国内で「ものづくり」が再生し、経済が上向くためには、どんな政策が政府に求められますか。

【中村】欧州の現状をみればわかるように、日本が第一に目指すべきは財政規律の回復です。数字的にみれば、経済規模に対する国の借金残高の比率は日本が最も大きく、きわめて危うさを感じます。野田政権が目指す「社会保障と税の一体改革」だけでは、巨額の借金は減りません。それどころか、デフレが続けば、ますます増えます。それを防ぐには成長政策の推進が急がれますが、財政規律の回復には間に合いません。私は、いまを生きている国民全体で負担を分かち合い、将来世代に先送りしないために、「連帯税」と「富裕税」の導入を提言したいですね。