この四半世紀、世界のどこかでバブルが膨張し、やがて崩壊することが繰り返されてきた。カネと金融資産が交換される「金融経済」が、情報技術の進歩が生んだ様々な金融手法により、実在する資金の数十倍もの規模に膨らんで、政府による規律なき国債増発も誘発されてきた。モノやサービスの生産や販売、設備投資など金銭に対する具体的な対価が伴う経済活動、つまり「実体経済」とかけ離れたところで、世界経済はもがき苦しんでいる。識者には「ただ儲かりさえすればいいという『金融資本主義』は、終焉が近い。世界は、モノやサービスの裏付けがある実物経済へ回帰する」とする声もある。金融資本主義に代わって、「ものづくり」が復権するのだろうか。
パナソニック会長 中村邦夫氏
――中村さんも、行き過ぎた金融資本主義に疑問を持たれていますね。

【中村】ええ、そうです。世界的に格差の問題が高まっていますが、これは、金融資本主義と自由化の行き過ぎが生んだところが大きい気がしています。行き過ぎにより、欧米でも日本でも中産階級が細ってしまったことに、問題があります。実際にある資金の数十倍ものカネを動かし、巨大化した金融商品や証券化した不動産などで稼ぐという手法の限界は、明らかです。そういう巨大なカネが、どこで何をしているかというと、食糧や資源など世界中の人々の生活や経済活動に不可欠なモノの価格を高騰させ、実物経済の場で働することも必要でしょう。それによって一時的に世界で孤立しても、やむを得ないかなとも思います。

2011年、日本の貿易収支は第2次石油危機で原油価格が高騰した1980年以来31年ぶりに、赤字に転落した。東日本大震災による輸出減少、原発事故に伴う火力発電への移行で生じた原油や液化天然ガス(LNG)の輸入増加、タイの大洪水による部品不足などが重なったためだが、国内外の生産コスト差の拡大が生んでいる「ものづくり」の停滞や空洞化が、貿易収支の長期的な悪化を招いている。