「教科書以外のいろいろな分野で知識が豊富だったり、スポーツが得意だったり、個性的な同級生が多いですね」と話すのは、熊医志望の3年生の松本洋典くんだ。陸上部に所属してインターハイに出場。8月からようやく受験勉強を本格化した。

両親はいずれも熊大卒。父は勤務医、母は薬剤師だが、松本くんが医学部志望に絞ったのは最近のこと。中学の頃は、裁判官か医師になりたいと考えており、熊高入学後はロボット工学に興味を抱き、東大や九大の工学部も視野に入れていたが、最終的に熊医1本に絞ったという。

「熊高は身近に医学部志望の仲間が多いので、医学部を目指すことが特別ではないんです。受験に向けても心強いですね。勉強のやり方が一人一人違っていて参考になるし、将来は何科を目指すかなんてことも語り合っています」(松本くん)

熊高→壺溪→熊医も熊本のエリートコース

部活も勉強もと充実した高校生活を送るには浪人のリスクも伴う。近年の大学受験では約7割が現役合格だが、熊高の場合、国公立大医学部に限らず約半数が浪人するという。

「熊本は浪人に対しておおらかなところがあります。生徒の希望を実現させる上で、志望校を変えてまで現役合格率を上げることに意味はありませんし、『浪人させても志望校に行かせたい』という考え方の親も多いのです」と小坂先生。

壺溪塾塾長 木庭順子先生
「熊本はいいところ。大好きな子が多いんです」

「第1志望合格のためには、浪人も辞さず」。熊高のこうした雰囲気を支える受け皿が、今年設立85年を迎えた地元予備校「壺溪(こけい)塾」の存在だ。かつては熊医の定員の半数が壺溪塾出身だったそうで、「熊高→壺溪→ 熊医」が県内のエリートコースと評されるほど。有名な藤崎八旛宮の例大祭の「随兵(ずいびょう)」では、塾生が神輿(みこし)を担ぐのが伝統で、沿道から「来年は頑張れよ!」と声援が飛ぶほど、浪人生が町に溶け込んでいる。

そんな壺溪塾の木庭(こば)順子塾長に、熊高の熊医志向の強さの訳を尋ねたところ、真っ先に返ってきたのが「熊本は食べ物もおいしく自然も豊か。みんな熊本が大好きなんです」との答え。その上で、「熊大の県内出身者の占有率は約30%。医学部に限ると38%と高くなります。医師になることが目的なら、難易度の低い他県の国公立大を狙うという考え方もありますが、『どうしても熊医』という気持ちが強い」と指摘する。

その大きな理由は医学教育界における熊医のブランド力だ。熊大医学部の母体は旧制熊本医科大学。旧帝大医学部に次ぐ医学教育機関として設立された「旧6医科大学」の一角を占める熊医は、“由緒正しき”国立大医学部なのである。