2013年10月29日(火)

JR東日本「A-FACTORY」誕生の軌跡

PRESIDENT 2013年4月1日号

面澤淳市(プレジデント編集部)=文 的野弘路=撮影 JR東日本=写真提供
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なぜ手書きにこだわるか

「そうか、シードルとアップルブランデーだ!」

ひらめいたのは、プロジェクトが走り出してから間もない2008年暮れのことだった。

日本におけるリンゴ栽培の発祥地は青森県。生産高はいまも圧倒的にナンバーワンだ。しかし手間暇をかける生食用のリンゴ栽培は高齢の農家にはことのほかきつく、一方、外見を問わない加工用のリンゴはジュース用など用途が限られるため、単価が安い。農家にも地元業者にも喜ばれる、付加価値の高いリンゴの加工品はないものか――。

エキナカの商業施設「ecute」を企画し大成功に導いたあと、子会社社長からJR東日本に戻っていた鎌田由美子に託されたのは、衰退ぶりが著しい地方経済の活性化という大テーマ。のちに「地域再発見プロジェクト」と名付けられる全社横断的な取り組みだ。最初に与えられた課題の1つが、新幹線開業を2年後に控えた青森市周辺で「何かをやってほしい」ということだった。

とはいえ、駅ビルなどの小売り事業は青森でもすでにJRグループが手掛けている。それよりも、特産のリンゴを活用してビジネスを展開すれば波及効果が大きいに違いない。具体的には何にフォーカスするか。フレッシュジュース、アップルパイなどが浮上したが、それらを検討した末にひらめいたのが、発泡性のリンゴ酒・シードルを軸にした地域活性化のアイデアだった。

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図1 アイデアを30分でコピー紙裏にメモ

鎌田はさっそく、「ひらめき」を形にするための作業に着手した。なぜシードルなのか、最終的にはどのような効果を狙うのか。頭の中で練り上げたビジョンも、図として示せなければ、他人にはなかなか理解してもらえないからだ。

まずは部下とのブレーンストーミングを兼ねて、事実や仮説、目指すべき方向、目的などをサインペンで書き込んだ手書きの図解(図1)を完成させた。

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図2 チャート図で関係者に事前交渉

「こういった図は、だいたい30分くらいで書き上げます。そのときはコピー用紙の裏紙とか、まっさらではない紙を使うほうがいいものができますね。手書きにこだわるのは、部下たちと目指すべき道を共有するためです。意思統一ができたら、部下に頼んで図の内容をPC用にパワーポイントでチャート図に再構成してもらいます」(鎌田)

鎌田が思い描いたビジョンは、この時点でよりわかりやすく、美しい図解に変身する(図2)。むろん1枚ではなく、必要に応じて補足説明のスライドを追加する。

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