Key Word 3 社会性

用途のあいまいな縁側的空間の効能

人を招き入れる多用途空間と、
子供のしつけにもつながるフォーマルな空間を

共通の趣味を持つ仲間を招いて休日を過ごす。幼い子供を持つママさんたちが集まりサロンを開く。30代で、そのような自宅の使い方をする人をよく見かけるようになりました。

家は家族の憩いの場。それだけではなく、外部の人との交友を通し、学びや自己啓発の場として積極的に活用しようというライフスタイルが、そこに見えてきます。

例えば、住宅の外観は、町並みを構成する一要素として公共性を持ち合わせています。同様に、住まい方においても、近隣に住む人々と円滑な関係を築くこと、すなわち家族の社会性は、暮らしやすさを支える大きな要素といえるでしょう。

では、そのような社会性は、空間的にどのように表現できるでしょうか。例えば、玄関を広くとり、訪問者をもてなす小さなテーブルを置く。あるいは、リビングの延長にタイル敷きのインナーテラスを設け、ティールームとする。雨の日は物干し場にもなります。

佐川 旭●さがわ・あきら
建築家、女子美術大学非常勤講師。「つたえる」「つなぐ」をテーマに、用と美を兼ね備えた作品で有名。平成20年度木材活用コンクールで、岩手県紫波町立星山小学校が特別賞に。NPO法人アジア教育友好協会理事としても活動する。著書に『最高の住まいをつくる「間取り」の教科書』(PHP研究所)など多数。
©Mizuho Kuwata

発想は、伝統的な日本家屋の縁側です。内側と外側をつなぎ、用途のあいまいな空間。今日の住宅では廊下は通路、キッチンは調理場というふうに、空間の役割が固定的に決められていて、用途のあいまいな空間はリビングくらいしかありません。しかし、リビング以外にも、和室や縁側のように多用途に使える空間が複数あると、家族にとっても何かと有用な場になります。

これも最近の傾向として、用途にあいまいさを持たせて縁側的空間を備えた住宅が少しずつ見られるようになってきました。

実は、伝統的な日本家屋には、学ぶべきところがたくさんあります。縁側のほかにも、例えば仏間や床の間のある和室の機能などは、改めて目を向けてもよいのではないかと思います。

仏間も床の間のある和室も、ある種の緊張感を携えたフォーマルな空間。かつて子供たちは、こうした部屋で居住まいを正す経験を通じ、行儀作法を体験的に身につけていったものです。しかし、今の住宅には、その機能を持った空間はあまり見られません。

子供の成長を思えば、縁側的空間は、多様な人と触れ合う経験ができる場、仏間などの空間は行儀作法を自然に身につけ、社会性が育まれていく場。私は、かつての日本家屋にあったそのような日常性と非日常性がバランス良く取り入れられた住宅が、今後は考えられていくのではないかと思います。

(高橋盛男=取材・文)