業界には、問屋とのいき過ぎた関係など、古い経営体質の名残もあった。そうした問題も含め、組合の立場で経営の近代化を考える。待遇改善だけでなく、経営改善へと向かったのは、結局は働く全員の生活を守るためだ。後輩に「創造的破壊者」と評されたが、1人で突き進んだわけではない。みんなで考えて、行動した。重要なステークホルダーとして、経営のチェック役も重要だ。

委員長を長くやり、どういう職場があり、どんな人たちがどういう条件で働いているか、実像がみえた。そこから、委員長の最後のころ、大勢いたパートタイマーたちの組合員化に取り組む。やはり、組合員でないことで、不公平さはあった。

組合にもパート側にも、議論はあった。組合は人数が増えれば負担は増すが、組合費の収入も増える。その分、パート側に負担も生まれるから、「それだけの見返りはありますか?」という問いになり、パートの時間給の増加が春闘の要求に入ることになる。執行部は当然、そうした義務を負う。不公平感の是正やパートの人たちの収入の安定は、働く意欲や向上心に欠かせない。そう考えて、95年実施への道筋をつける。業界では、先駆けた動きだった。有期雇用の契約社員についても、後継の委員長たちが進めてくれて、いま高島屋では全員が組合員になれる。

一連の活動に「経営の圧迫要因になるのではないか」と指摘されたことが、少なくない。陰口も、言われた。でも、経営側に立った際に確認したら、言われるほど負担にはなっていない。それより、同じ組合の組織員であるという意識が浸透し、職場の一体感が醸成され、安定した職場づくりの一助になっている。

「無恒産、因無恒心」(恒産なければ、因って恒心なし)――生活を支えることができる安定収入がなければ、変わらぬ道徳心は保ち難い、との意味だ。中国の古典『孟子』にある言葉で、指導者は人々の気持ちをぐらつかせないように、安定した経済基盤を確立してあげなくてはいけない、と説く。パートタイマーや派遣社員の生活基盤の改善を図り、企業としての総合力を高めていく鈴木流は、この教えと重なる。