2013年10月25日(金)

菊花――減りつつある伝統野菜。酢の物にみそ汁に贅沢な美味

dancyu 2012年12月号

福地享子=文
【つくり方】
赤紫と黄色の菊を使った。たっぷりの熱湯を沸かし、酢を少々、花びらだけにした菊を入れ、一煮立ちしたら氷水に放ち、水気を絞る。あとは三杯酢で和えるだけ。時間をおくと、色がさめるどころか鮮やかになるから不思議。

「10年前に比べると、半分、いやもっとかなぁ。売れなくなったよね」

さらに大きなため息で言葉をつなぐ。「秋を表現するといっても、マツタケや栗ほどにインパクトないから」

食用菊は、今や忘れ行く伝統野菜のひとつ、ということらしい。

築地仲卸で聞いたそんな話を思い出しながら、菊の花びらをむしる。ボウルにふんわり山となった花びら。こんなにも美しいものを食べるなんて……。花を食べる野菜は、菜の花もそうだけど、花びらのみ、という贅沢は菊だけだ。料理してみれば、それがどれだけ贅沢なのかよくわかる。ほんの数口で食べ終える量にしても、両手にこぼれるほどの花びらを使うのだから。花びらを食べる贅沢に背を向けるなんて、私にはできない。

食用菊の主産地は、東北地方。以前、雪の舞う青森県を回ったおり、たずねたお宅の土間には申し合わせたように鉢植えの菊がみごとに咲いていた。菊は寒い地方を好む植物なのだ。

食用菊として、古くから有名な品種は青森県の「阿房宮(あぼうきゅう)」。中国・秦の始皇帝の宮殿の名をとったこの菊は、江戸時代の終わりに南部藩主が京都から移植したとか、八戸の豪商が大阪から持ち帰り、食用に広めたとかいわれている。花の色は黄色。生というより干し菊の材料になる。花びらを蒸して、薄く広げて干すのだ。その形から「菊海苔」とも。築地の青果部で「海苔」といえば菊海苔のことだけど、「若いひとには通じなくなった」と、そんなぼやきも耳にする。

生で流通している菊では山形県の「もってのほか」が、評判の品種。赤紫の菊を総称して「もって菊」としているようだけど、正真正銘のもってのほかは、花びらが筒状で、ゆでたときのシャキシャキ感がそれはいい。うまさときたら「もってのほか」と命名されただけのことはある。同じ系列で、新潟県の「かきのもと」も、おいしい菊として評価が高い。

菊は、干し菊にしろ生にしろ、ゆでてお浸しにすることが多い。その際、お湯に酢を少し落とすのがポイントだ。

「染色で、草木染めをするとき、色出しに酢を使うのと同じじゃないかな」と、雑学好きの夫が言う。実際に酢を入れないでゆでると、ことに赤紫の菊の場合、まったくしょぼたれた色に変わってしまう。化学的なことはさておき、酢が花の色を鮮やかに変えることは確かだ。だから酢の物にすると、その色は生のときよりいっそう鮮やかに冴える。

ある朝は、みそ汁に散らした。煮えばなに生の花びらを入れる。お椀の表面を黄色に埋めつくす花びら。どうだ、参ったかの贅沢みそ汁。気分、いいものです。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。