2013年10月18日(金)

銀杏――釜飯や茶碗蒸しにもいいけれど、煎りたてがイチバン

dancyu 2012年11月号

福地享子=文

築地市場でのギンナン入荷は、マツタケ登場とともに慌ただしくなる。焼きマツタケや土瓶蒸しに、とマツタケ料理に欠かせぬものだからだ。主産地は愛知県の祖父江町。全国シェアの3割を占めるとかで、晩秋の町は、樹齢100年以上の大イチョウで黄金色に染まるという。

殻つきの数粒を手のひらで転がせば、カラコロと乾いた音。実というより、果肉を取り除いた種子で、この種子の殻を取り除いた「仁」を食べる。その点では、アーモンドやクルミも同じで、ギンナンは、国産ナッツの代表といっていい。

どちらかというと脇役に回りがちで、ポピュラーなところでは釜飯や茶碗蒸しだろうか。「アラ、ギンナンだ」と、それなりにうれしいけど、ホントの味は伝えてないように思う。ギンナンの美味しさは、殻ごと煎って、まだ余熱が殻に残る程度、「アチチッ」なんていうのが混じってるくらいで殻をむき、ちょっと塩をつけては口に放り込む。そこにある、と断言したい。ねっとりして、ほの甘くって。そうやって食べていると、巣籠もり前のリスになった気分。ほのぼのしちゃって。せわしない日々に見つけた日溜まり的ひとときというか、行為そのものも御馳走に思えてくるから不思議だ。

とはいえ殻つきギンナンを煎る作業は、私、いまだ修業中。「茶封筒に入れて電子レンジでチンすりゃいいんだよ」と市場で聞いたが、やはりきちんと煎ったほうが美味しいし、手間もかからない。そのはずなんだけど。

【つくり方】
殻つきギンナンを用意し、稜線の部分に軽く割れ目を入れる。鍋にギンナンと塩をたっぷり入れ、弱火で煎るだけ。殻をむき、この塩をつけながら食べる。残りの塩は、焼き塩として流用できる。

まずは殻に軽く傷をつけることから始まる。殻の稜線に沿った一部分を割っておくのだ。出刃包丁の背でコツンとやる、と料理書にはあるが、刃先が自分に向かってくるようで怖い。大工道具のペンチを使う。ところが力の入れ加減が微妙で、3粒に1粒の割合でグシャリと潰してしまう。それを見ていた夫が、「オレにやらせろ」と。夕暮れ迫れば酒飲むしか能のない夫がですよ、妙に器用にそれ、こなしてしまうのだ。

続いて、煎る。くたびれたどうでもいい鍋を選び、そこに塩をいっぱい入れ、ギンナンといっしょにカラコロ転がすのだ。殻の数粒にほんのり焼き色がつけば、できあがりのサイン。書けば簡単だけど、ひとたび台所に入れば、2品3品は同時進行的体質の私には、これがかったるい。そこで、再び夫の手に。焼酎のお湯割り片手に与太なぞ飛ばし、カラコロそりゃもう絶好調。煎り加減もなかなか、ときてるからイヤになる。

「昔、行ってた飲み屋で、よくやらされてさぁ」と白状したが、要するに、こういう方にやらせときゃいいと悟ってしまい、実際は修業未満のままなのだ。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。