さらに、岡田は続けた。

「このまま問屋で終わるか。(ガビロンを)買収して、穀物メジャーに本当になっていくか、どちらかですよ」

朝田が身を乗り出して、岡田に聞いた。

「そうか。じゃあ、ガビロンを買収すると、“全く違う世界”へ行けるんだな?」
「そうです」

答えた岡田に、朝田はこういった。

「わかった」

こうして、丸紅首脳陣の中で、ガビロン買収の流れはできあがったが、問題は買収に必要な費用だった。11年11月、12月の為替レートは1ドル77円前後で推移する円高が続いていた。そのレートで3ビリオンドル(約2300億円)では、話にならない価格だと、穀物業界に精通するプロたちからは示唆されていた。

「いくら必要になるんだ」

朝田の問いかけに対して、岡田は、

「4ビリオンドル(約3000億円)ぐらい出さないと、箸にも棒にもかかりませんよ」

「再びスリーエム(三菱、三井、丸紅)と呼ばれたい」と、商社5位のポジションからの脱却を望み続けてきた朝田。財務畑を歩いてきた朝田は、もしもガビロンがライバルの三菱商事、伊藤忠商事に持っていかれたらどうなるかも、頭の中でソロバンを弾いていた。もし、他社に渡った場合、しばらくは、他の商社よりも「販路」を持つ先行者利益で丸紅は優位性を保てたにしても、いずれ数年後には、逆転されてしまうという結論を出した。

そして、ガビロンに買収を提案し、何度かの交渉の末、合意に至ったのだ。

買収を決めてからも、難題は続いた。次は、国際的なM&Aで避けて通れない関係する国の「独禁法」をクリアすることだった。独禁法に関しての、岡田の懸念は、中国のそれに対してだけだったが、頭の片隅には、米国の独禁法の懸念も少しあったようで、こう語っている。

「丸紅はすでに米国で60のカントリーエレベーターを持っている。買収後は、ガビロンのそれと合わせると200になる。もしこれが独禁法にひっかかって、いくつかエレベーターを売れという判断が出るかもしれないと……」

過去にもカーギルがコンチネンタルグレインの穀物部門を買収した際、内陸のエレベーターをいくつか売らされた事例があり、それが岡田を緊張させていた。