織田作之助の結婚通知から、病床の筑紫哲也の手紙、村上春樹の苦情まで、古今東西の作家・文化人がしたためた名文珍文を一挙公開。思わず噴飯、時にため息がもれる名人芸をご賞味ください。

知人を紹介する文章はビジネスの世界ではよくあることだ。次に挙げるのは作家、山口瞳が『ヨーロッパ退屈日記』に寄せた、伊丹十三の人物紹介である。

図を拡大
(読売新聞/AFLO=写真)

伊丹十三にはじめて会ったとき、彼は19歳、私は26歳だった。(略)

彼はいつも控えめで無口であったが時折ボソッと口をきくと、それはいかにもその場にふさわしい発言であり、おどろくほど正確であり、同時に、うまい言い廻しであった。不思議な少年であった。(略)

伊丹のいいところは、人間としての無類の優しさにある。そうして、その優しさから生ずるところの『男らしさ』にある。優しさから生まれた『厳格主義』にある。(略)

私には仲間褒めをする気持ちが全くない。伊丹十三には神に愛された才能があるとは言わない。すべては『優しさ』から発していると考える。その『優しさ』がホンモノであると考える。

山口瞳の文章には特徴がある。簡潔で、ひとつの点(優しさ)だけを褒め、最後に余韻を残す。簡潔、集中、余韻の3点がポイントだ。