その後に帰任してから行ったイケア神戸店で「こたつが売られていない」(地域ユニーク商品を扱わない)事実に再度「なるほど」と思ったことを思い出す。ローカル密着視点からはこたつなどの各国伝統アイテムを扱いたくなるが、さりとて大量発注による納入価格ダウンのメカニズムは働かない。それは、国ごとでのローカル適応と横串で貫くグローバル統合とのさじ加減の問題であり、その塩梅は十社十色で、決められた答えがあるわけではない。

イケアの場合、グローバル大量発注ができる共通アイテムを揃えることで実現した手頃な価格をもってローカルニーズに応え、加えて「北欧の暮らし方」体験というユニークなコアコンピタンスの提供を行う考えのようである。そこにはローカルニーズに迎合せず、自社の強みを愚直に全世界で再現する巧みな経営がある。再現の仕組みは、イケアの場合、創業者カンプラード氏によって明文化された「コスト意識を強くもつこと」「(その地域の)伝統的な商品の取り扱いはスカンジナビア以外では限定的であること」(「ある家具商人の書」から)という行動規範で規定されている。創業70年を経過してもなお、現場で理念が貫徹されていることに驚く。

私の知るスウェーデン人は一見内気でシャイな人物であるが、一皮剥くと強烈な個人主義者である。一般的にも「自立した強い個人」というのは北欧の人々の本質的な特徴と言える。彼ら彼女らは、厳しい冬・自然環境でのサバイバルを想定して、子供の頃から自分のことは自分でやるように躾けられるそうである。それゆえか自己責任意識・自己管理能力は極めて高い。これは異文化の中で空気に流されず、自社の強みにこだわり、自身の感情・考え・反応をコントロールするうえで役に立つ資質である。イケアの徹底的な創業者行動規範の再現はここにつながるのであろう。

逆に、日本企業がグローバル化する際、ローカルニーズ適応・異文化適応に汲々とするあまり、また「あうんの呼吸」や会議でも空気を読みながら落としどころを狙う習慣により、自社のDNAや理念の伝承力・ローカル再現力が落ちていないだろうか。筆者の経験として、面倒がらずに自社理念・方針を説明すれば、現地法人の外国人スタッフは日本人よりも真摯な姿勢で聞き入ってくれる。「自分たちは何者か? 我々はどうやって社会に貢献するつもりか?」という根元的な問いを胸の内に持っているからだ。「伝えよう」とするこちらの意識次第で状況は一変するはずである。