今年もノーベル賞発表の季節になりました。毎年この時期になると、村上春樹さんのノーベル文学賞の当落が話題になります。小説を読まない人も気になる国民的作家、村上春樹。その虚像と実像に迫った『謎の村上春樹』の著者、助川幸逸郎氏が「半沢直樹」「小泉今日子(あまちゃん)」「東京五輪」「宮崎駿」といった2013年のキーワード、キーパーソンで村上春樹を語ります。

【助川幸逸郎】このまえある人と、『半沢直樹』ってアメリカじゃ絶対成り立たないドラマですね、という話をしたんですよ。アメリカだったら、あれだけ仕事ができる人間はヘッドハンティングされてもっと待遇のいいところに移るか、自分で起業するかで、どちらにしても会社をやめていると。でもあのドラマがあれだけ売れたのは、大きな企業の中できっちり勝ち抜いていくことが、やっぱり日本ではあるべき社会人の姿だという感覚がまだ強いからなんでしょうね。

――倍返しとかいっても結局は組織内のゲームですからね。これが『ハゲタカ』の鷲津政彦だったら、外資の投資銀行に転職してそこのお金で東京中央銀行を買収して、新たな頭取を送り込んで大和田常務をとばし……。

【助川】それがほんとうの100倍返しじゃないですか。でもそういう筋書きだったら、ここまでの視聴率は出せなかったと思いますよ。去年の大河ドラマ『平清盛』が私たちのような一部のマニアにしか受けなかったのと同様に。

――平清盛はいわばベンチャーだから共感されなかったというのが助川先生の見立てですよね。

【助川】そう。大河ドラマは長らく、企業内で着実に出世していく男とそれを内助の功で支える妻、という理想像を提示してきたわけです。今回の『平清盛』の登場人物は、清盛も後白河もことごとくふつうの企業ではやっていけない得体のしれない個性派だったので、一般受けしなかったのでしょう。村上春樹も文学界においてはベンチャーや外資みたいな立ち位置です。アメリカの小説の影響を色濃く受けた作品で、日本の文壇に鮮烈にデビューしたけれども理解されず、「書き続ける資質があるかどうか様子を見たい」などといわれてつぶされかかって、海外に打って出たら成功して、メジャーになって戻ってきました。