手帳の選び方、1週間の組み立て方法、自分の軸のつくり方……。時間管理の達人たちが試行錯誤の末にたどりついた実践的なテクニックと、その背景にあるセオリーを披露する。

▼田中和彦さんのメソッド

上司や部下にスケジュールをかき乱されて困るという人は、先手を打って工夫してはいかがでしょうか。

リクルートでの課長時代の話です。上司である部長や役員は、毎週取締役会に出席していました。私には直接関係のない会議でしたが、上司は細かい数字まで把握していないことが多く、途中で呼び出されて私が詳細を説明することがありました。「次も出ましょうか?」と聞くと、上司は「大丈夫」。そこで別のアポを入れると、結局はまた呼び出されてスケジュール調整することに……。

そのうちに、これは事前に上司のスケジュールを把握し、指示の内容を先読みするしかないと思い至りました。そうした視点でスケジュールを見直すと、「この会議の前に資料提出を求められそうだから、火曜日に下書きまでしよう」「この会議は前回も呼び出されたから、あらかじめ空けておこう」と、事前にやっておくべきことが見えてきます。おかげで、急な要請でスケジュールが混乱する事態をかなり減らせるようになりました。

上司の思考の先読みは、1つ上の視点で仕事を考える訓練にもなります。スケジュールが円滑になり、自分も成長できるのですから、まさしく一石二鳥です。

部下の時間の使い方に関しては、長期的な視点が必要です。マネジャーになれば、できるだけまわりに仕事を振り、自分は重要な仕事に集中すべきです。ところが「失敗されると、尻拭いで余計に時間がかかる」「自分でやったほうが早く片付く」といった理由で、仕事を抱えこむ上司が少なくありません。

短期的に考えると一理ありますが、仕事を任せなければ、いつまでも部下は成長せず、自分も忙しさから解放されません。そもそも「自分でやったほうが早い仕事」は、部下を鍛えることはあっても、自分にはプラスにならない場合がほとんど。マネジャーは、そうした仕事に自分の時間を費やすのはもったいないという自覚を持つべき。最初は部下へのレクチャーに時間を取られるかもしれませんが、将来への投資だと考えて、積極的に仕事を手放してください。

部下の時間を管理しようと詳細に報告を求める人がいますが、あまり感心しません。たとえば日報を事細かく書かせても、毎日同じような内容が報告されるだけ。しまいには上司のほうも読まなくなり、形骸化していきます。

私は日報がわりにToDoリストを提出させていました。1日の終わりに「今日のToDoリスト」をチェックさせて、やり残しや新たに発生した仕事を「明日のToDoリスト」として提出してもらうのです。これなら書くのに5分とかからず、お互いに手間がかかりません。また今日したことと明日やることを同時に提出することで、部下も仕事の流れを意識できるようになります。いずれにせよ何時にどこにいたというレベルまで管理するのは、やりすぎではないでしょうか。

田中和彦(プラネットファイブ代表取締役)
1958年生まれ。一橋大学卒業後、リクルートに入社。人事課長、広報室課長、転職情報誌4誌の編集長を歴任。映画プロデューサー、キネマ旬報社代表取締役を経て、現在は人材コンサルタント、映画、出版のコンテンツプロデューサー。
(村上 敬=構成 澁谷高晴、的野路弘=撮影)
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