値下げする合理的理由

藤井さんと多種多様なプラットフォーム上の『Gene Mapper -full build-』たち。9月27日時点の価格は、Kindle ストア 630円[税額表示なし]、Reader Store 662円[税込]、koboイーブックストア 662円[税額表示なし]、iBook Store 670円[税額表示なし]、ハヤカワ文庫 本体700円+税。

藤井氏の言う「安定する価格」「わかりやすい価格」というのは、「腑に落ちやすい価格」ということだ。買い物体験によく馴染む違和感のない価格。ここを藤井氏は重視した。消費者の購買心理をここまで踏まえて値付けされているセルフ・パブリッシング本がいったいどれぐらいあるだろうか。

『Gene Mapper』の7割は、藤井氏自身の判断で300円に値下げしたプロモーション期間中に売れている。藤井氏は今までに複数回プロモーションを実施した。この500円から300円への値下げにもれっきとした「ワケ」があった。

【藤井氏】300円というのはオンラインのコンテンツとしたらちょっと高めです。でも、気に入ったから買う、読もうと思ったから払うというレベルで考えると、十分に安い。これを倍の600円にするとちょっと厳しくなりますが、500円から300円への値下げというのは、小説の値段としては、私たちがふだんよく目にしている価格と非常に合致していて、しかも安定感があってわかりやすいんです。単純にたくさんばらまくだけだったら、100円にすればもう少し部数は伸びたと思いますが、私は、普通の商品として勝負したかった。

 iPhoneのアプリをすごくたくさん買ったりしていた自分の経験を通して、500円と300円という価格設定に馴染んでいたというのも大きいですね。アメリカでは2.99ドルの本が、収益と販売数のバランスでは一番いい値段設定だと聞いたこともあります。プロモーションでは300円で売ろうと決めていましたし、値付けに対する自分の感覚とそうした情報が乖離していなかったので、安心して設定したわけです。

300円への値下げキャンペーンも、タイミングを見計らい、合理的理由のもとに実施している。思いつきでも気まぐれでも、ましてや大盤振る舞いのサービスでもない。

【藤井氏】ぶっちゃけて言えば、自分が売りたいときに値下げしていますが、実際には読者にとってフェアだと思われるタイミングで実施しています。例えばどこかのマーケット(販路)が開いたとか、KDPが日本でもオープンしたときやiBooksStoreが開いたときには、長くキャンペーンをやりました。あとは自分がうれしかったときですね。はじめてブック・アサヒ・コムで『Gene Mapprer』が紹介されたとき(2012年8月28日「日本人初? 「コボ」「キンドル」でデビューした新人作家が第1位を獲得するまで」 http://book.asahi.com/booknews/update/2012082100001.html)のような、みんなと分け合いたいと思えるレベルのうれしい出来事があったときにはキャンペーンをやります。露出がすごく増えるタイミングって必ずあると思うんですよ。そういうときに何か理由をつけて、ちょっとでも安く売るというのは「あり」だと思います。