2013年10月11日(金)

サケ――サーモンより脂こそ少ないが、情のある奥深い味わい

dancyu 2011年11月号

福地享子=文

アキザケがやってきた。氷をぎっしり詰めた長箱におさまって。氷をかき分けると、まぶしいほどの銀の鱗。川を上る以前、ぶな色の婚姻色をおびる以前のサケである。つややかな銀の色から、銀毛とも呼ばれている。

標準和名はシロザケ。サケの仲間うちでは、加熱後の身が白っぽいからだろう。トキザケというのがあるが、これは春から夏にかけ、時を違えて日本沿岸にやってきた「うっかりモン」のシロザケだ。またの名を時不知(ときしらず)。うっかりモンのわりには、脂がのってうまい。

そして幻のサケ、ケイジ。秋から冬の北海道に数万尾に1尾の割合で揚がるが、これも生物学的にはシロザケである。ところが、戻るべきお国が違う。ロシア生まれで、ロシアの河川に戻るべきところを日本へ迷いこんだ、いわば「はぐれモン」。おまけに性的にも未成熟。産卵というサケにとって一世一代の大仕事を経ていない。であるからして、肉体的消耗がなく、脂がのっている。ケイジを店頭で売るおりの私は、なんだか遊女家の遣り手婆気分。男を知らない異国のいたいけな少女ザケを……。アララン、いけません、バカなこと考えてちゃ。生でも販売されるが、冷凍しておき、ごちそう需要の多い暮れにキロウン万円の値で、うやうやしく店頭に並ぶことになる。

とまあ、これほどに呼び名が多いのも、ニッポンのサケとして長い歴史を持っているあかしだろう。それなのに、近年はサーモンと呼ぶノルウェーやチリの養殖ザケに押され気味なのが惜しい。

確かにサーモンは現代人が好む濃厚な脂がある。しかし、と思う。その濃厚な味で一瞬、舌をとらえるが、その先がない。シロザケは、脂こそ少ないが、柔らかな風味がある。情のある奥の深い味わいが。それを日本人は愛してきたのだ。

【つくり方】
サケは下塩をして一晩置く。きのこいろいろを皿にのせ、適当に切ったサケを置き、白ワインをふり、豆粒大のバターをのせる。ラップで覆って電子レンジで5~6分加熱、きのこの香りが立つ白ワイン蒸しに。仕上げに刻んだパセリをふる。

そんなアキザケをさらにおいしく食べるため、心掛けていることが2つある。まず身質がやや水っぽいので、下塩をしてキッチンペーパーを敷いた容器に入れ、一晩置く。塩がゆっくり回って身は締まり、うまみがよりたってくるのだ。そして、バターを使って料理する。河岸で定番人気のサケ料理とくれば「しゃけバター」。サケとバターの相性は抜群。ホイル蒸しにも、酒蒸しにも、ともかくバターを私はよく使う。

アキザケの形相は、猛々しく険しい。彼らは母なる川から海へおり、4~5年もの歳月を北の海で大回遊して暮らす。回帰率はたったの2.4%とか。険しい表情は過酷な試練を乗り越えてきたあかしだ。

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福地 享子

かつて女性誌の編集者、その後、築地の鮮魚仲卸「濱長」の看板ネエサンとして大活躍。現在は築地の書庫「銀鱗文庫」役員。ここを拠点に、築地を走り回っている。