地元の人たちと一緒に地域の宝を発掘し磨き上げ、観光の新しい目玉として人を呼び込む。それがJTBグループの事業ドメイン「交流文化事業」の一つの形だ。長野県阿智村では「日本一の星空ナイトツアー」で、宿泊客が対前年120%の伸びを示した。

「日本一の星空」なら
観光客を呼び込める

人と人が交流することで新たな文化、新たな価値が生まれる。そのことが地域や国の観光資源や経済的資源となり、人やモノの行き来を活性化し、また新たな交流や文化を生み出していく。こうした交流の循環、拡大によって社会をより豊かなものにしていく。これがJTBグループが事業ドメインとする「交流文化事業」だ。

従来の旅行業や観光業の枠組みにとどまらず、あらゆる分野で事業機会を自ら創造するとともに社会に、地域に、世界に貢献していく──。「交流文化事業」という概念には、日本のツーリズムのリーディングカンパニーとしての志が込められているのだ。

長野県下伊那郡阿智村。南信州の山間にあるこの小さな村は、環境省の全国星空継続観測で「星が最も輝いて見える場所」の第1位(2006年)に認定されたことがある。その日本一の星空が堪能できる「日本一の星空ナイトツアー」が昨年から企画されて観光客の好評を博している。

(左)環境省の全国星空継続観測で「星が最も輝いて見える場所」第1位に選ばれたこともある長野県阿智村の星空。小島嘉仁=撮影
(右)標高1400メートルまで登り、山頂に着いてゴンドラを降りると、「日本一の星空ナイトツアー」の案内板が迎えてくれる。

夕闇から漆黒の宵闇へと移り変わる午後7時過ぎ。冬場はスキー客が利用するゴンドラに乗り込んで、ツアー参加者は標高1400メートルの山頂へ向かう。街明かりも届かない山頂。わずかに照らす照明がカウントダウンとともに一斉に消されると、浮かび上がる満天の星空。星のパノラマに包まれた参加者の歓声と溜息で、瞬間、山の静寂はかき消される──。ツアー2年目の今夏は、事前予約だけで8割が埋まり、隣接する昼神温泉の宿泊予約も対前年120%となったという。

静かな温泉郷・長野県阿智村。

温泉や豊かな自然と同じように「星空」もまた阿智村にもともとあった宝物だ。しかし村の人々にとってごく当たり前の日常。それが重要な観光資源になるという発想にはなかなか行き付かなかった。

きっかけは2011年春にJTB中部が主催した「魅力ある着地型旅行セミナー」に阿智村の関係者が参加し、相談を持ちかけてきたことだった。JTB中部交流文化部の地域交流推進室課長で観光開発プロデューサーの武田道仁氏はこう振り返る。

「地域の魅力を商品化したいという動きはとても多いし、私たちのところに持ち込まれる案件も少なくない。しかしそれが本当に着地型(地元発着)の旅行商品として成立するかというと、現実にはなかなかうまくいかない。そこで私たちは『コンテンツの発掘段階からJTBと一緒にやりませんか』という提案をセミナーなどでお伝えしています。阿智村の事例はまさにそんなやり取りから生まれたケースです」