もっとお金がほしい。もっと愛されたい。もっと仕事で認められたい。もっとおいしいものが食べたい。満たされない苦しさから脱出するために、新たな目標を設定するようになります。しかも、より大きな快感を求めてより高い目標を課すようになる。目標が高くなれば達成が困難になってより苦しくなるうえに、失敗することも多くなります。

目標が達成できそうにないと感じたとき、別の欲望を満たすことで快楽を得ようとする人もいます。たとえば仕事がうまくいかないときにお酒でストレスを発散する。一時的な快楽で苦痛を忘れることはできますが、もとの苦しさが減るわけではありません。苦しさから逃れるための代替行為がエスカレートして、お酒やギャンブルに溺れる人もいます。

頑張るバイタリティのある人なら、より高い目標もクリアできるでしょう。そのときもドーパミンが放出されて気持ちよくなる。しかし、いずれ慣れてしまうので、さらなる快感を求めてもっと高い目標を設定して……という繰り返しです。

満たされないことに比べれば、満たされたほうが幸せに決まっています。しかし、満たされたことで感じる「快感」も「苦」の情報を脳が書き換えて、快感スイッチを入れることで感じるバーチャルな感覚にすぎない。多くの人はそれを幸福感と錯覚しているのです。

月読寺住職・正現寺住職 小池龍之介
1978年、山口県生まれ。95年僧籍を取得。東京大学教養学部卒業後、寺院に勤務。20117年4月、浄土真宗正現寺第22代住職に就任。現在は正現寺(山口県)と月読寺(東京・世田谷)を往復しながら、自身の修行と一般向けに瞑想指導を続けている。著書は『考えない練習』『ブッダにならう 苦しまない練習』ほか多数。
(構成=小川 剛 撮影=向井 渉)
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