【A(続き)図書館が変わり、知的世界のあり方が根本的に変わろうとしている現在、こういった新たなシステムをどれだけ自家薬籠中のものとして使いこなす人間になりうるかどうか、それがビジネスの世界においても今後問われていくことになると思います。

バーチャルリアリティ環境に関する技術は、日本では民生用ですが、アメリカでは完全に軍事技術です。事実、イラクやアフガニスタンで展開中の対テロ戦争遂行のため、ビン・ラディン殺害作戦などでも活躍した無人攻撃機プレデターを衛星回線を使って遠隔操縦し、敵の偵察や攻撃作戦を行う際にこの技術は不可欠になっています。

そして、これらの技術開発をすすめるアメリカや中国などは、その成果を軍事面だけでなく、ビジネスの世界にも早晩導入してくるでしょう。日本も、その土俵の上で戦わざるをえなくなります。

もちろん日本の科学技術の水準は、決して低いわけではありません。例えば、欧米に比べ専門的な人材の厚みに欠けるとされる金融工学の世界にしても、実はその理論的基礎となっているのは、日本人数学者の伊藤清による「伊藤積分」なんです。しかし、そんな事実も、日本人一般の関心が低いために広く知られていません。そのため、本来優秀な日本の研究者たちに孤独で苦しい戦いを強いることになっています。

日本で最先端の研究とその成果が国民的に共有されているのは、iPS細胞の山中伸弥教授のケースくらいでしょう。そうした社会からの幅広い承認が、研究者を元気にさせ、より有益な成果をもたらすことになるのですが。

【Q】立花さんのように、進化していく知の世界に関心を持ち続け、知識を自分の血肉にしていくにはどうすればいいでしょうか?

【A】それは自身の好奇心にかかっています。好奇心の琴線に触れないものは、その人の脳みそにも、腹の中にも入ってはいかない。つまり、より深いレベルで知りたい、調べてみようというモチベーションは湧いてきません。逆に、その対象が好奇心のもっとも深い部分で琴線に触れるものなら、その人は何も言われずとも、自発的に行動を起こすでしょう。ですから、好奇心を広げることが最も肝要ということになります。好奇心を広げ、自身の知の世界を掘り下げていくには、やはり、1冊でも多く本を読むことに尽きるのではないでしょうか。

本書では、私の蔵書について、その本を読んだ頃、何を考え、何に悩み、何を喜びとしていたのか、その記憶とともに語っています。私の思索の歴史が皆さんの好奇心を広げ深めていくアンテナとして役立てばと思っています。

(松見 朔=構成 北澤甲斐=撮影)
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