従業員には「いつ」破産を告げるべきか

従業員に対する未払賃金(給料の不払い)がある場合、破産の制度上は従業員も会社に対する債権者として会社の財産から配当を受ける権利があります。しかし、小規模な会社の場合、未払賃金に配当される財産はほとんどないのが現実です。

このような場合に備え、未払賃金や退職金の一部を立替えてくれる制度として、独立行政法人労働者健康福祉機構が運営する「未払賃金立替払制度」があります。

この制度は、破産手続開始申立てや事実上の倒産の認定申請の6か月前の日から2年間に退職した従業員の未払賃金や退職金の8割を立替払いしてくれるというものです。ただし、未払賃金や退職金の8割を立替払いしてくれるとはいっても、金額の上限があります。退職日現在45歳以上の場合は296万円、30歳以上45歳未満の場合は176万円、30歳未満の場合は88万円がそれぞれ上限となっています。

このように、制度があるとはいっても、その対象となる従業員は限られ、立替払い金額にも上限があるため、経営者としては、従業員に説明する際には注意が必要です。

しかし、給料すら払えなくなってしまった経営者としては、賃金未払の状態でずるずると従業員を雇用し続けるよりは、早急に破産手続の申立てをして、従業員が賃金立替払いを受けることができるように配慮するほうが、結局は従業員の利益になる場合が多いはずです。

ただし、いくら従業員のことを心配していても、経営者が会社の破産を決意して、その準備を行っていることを従業員に周知することは望ましくありません。破産申立てをした後は管財人が法律に基づいて整然と手続を行いますが、破産申立て前に従業員にそれを伝えてしまうと、従業員から情報が洩れ、その結果として債権者による債権回収を誘発したり、会社財産の持ち出しなどの混乱が起こることも十分に考えられるからです。また、いたずらに社内が混乱して円滑な破産申立の準備もできなくなってしまう恐れもあります。従業員に対する事前説明は経理担当者や一部の幹部のみにとどめ、その他の従業員に対しては、破産手続を申し立てた後に真摯に説明を行うべきでしょう。申立て後に立替払い制度の利用を希望する従業員に対して手続きの説明を可能な限り行い、手続をサポートすることが大切です。

(企画協力=アルテ総合法律事務所(村井淳也・弁護士/渡邉 論・弁護士))
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