このようにモチベーションが低下した組織を、社員自らがやる気を高めていく組織に変身させる方法がある。

それが、会社の存在意義を設定し直すビジョンマネジメントである。事業の意義を現代に置き換え、社会に提供している価値を明確にし、それを会社のビジョンとして社員が共有するというものだ。

例えば、求人広告雑誌の発行を主な業務とする会社があるとする。営業マンに「あなたの仕事は?」と尋ねたならば、「求人がないか様々な企業を訪問し営業することだ」と答えるだろう。

だが、ビジョンマネジメントの考え方を取り入れると、「世の中の転職希望者に対して1つでも多くの選択肢を提供するために日々活動している」、あるいは「自由に転職できる社会の基盤づくりをしている」と置き換えることができるはずだ。

このように社会から見た一段上の視点でビジョンを提示するのがビジョンマネジメントだ。それにより自社商品やサービスの社会的価値を認識させ、モチベーションを上げていくのである。

ビジョンマネジメントの一例として一般的にもわかりやすいのが、テレビCMだろう。最近では、自社の存在意義や価値を消費者へのメッセージとして流しているCMも多く見られる。

例えばJT(日本たばこ産業)では、自社の価値として「ディライト」(喜び)というスローガンを掲げている。JTは、人々の「ディライト」を創出する企業であると社員の気持ちを喚起させると同時に、消費者へのアピールにも成功している。

ほかにも、三越の「飾る日も飾らない日も三越と」というコーポレートメッセージや、ローソンの「マチのほっとステーション」、コスモ石油の「ココロも満タンに」というキャッチフレーズにも、その企業の社会への価値が含まれている。

最近のCMを見ていると、提供する商品やサービスの利便性をアピールする機能的なものから、その商品やサービスがあるからこそ、こんなにも心が豊かになる、安心するという情緒的な価値に企業のビジョンがシフトしてきていることがわかる。

日本の経済が成熟したことで、物質的な豊かさを求める時代から精神的な豊かさを求める時代になっているからだ。古い固定観念を捨て、新たな企業ビジョンを掲げるべき時期に来ているともいえるだろう。