有名なエピソードに、武器を次々替えた話があります。長い刀が主流の時代に、実戦では短いほうがいいと短めの大小を腰に差していた竜馬。彼を信奉する人物がそれを真似て、褒めてもらいに竜馬を訪ねたら、「今は刀より、これの時代だ」と、竜馬が見せたのは拳銃だった。やがて拳銃を手に入れて再び会いに行ったら、今度は「おれは、これさ」と万国公法(国際法)の本をふところから取り出した。最終的に武器ではなく、法律の時代が来ることをいち早く予見していたのです。

私も「今日売れている商品が明日も売れるとはかぎらない」といつも言っています。かつて窮地の会社を救ったスーパードライのような大ヒット商品であっても、いつまでも売れ続けるとは思いません。しかし一方で、売れ続ける状況にするためには何が必要かと考えている。常に「今のままではいけない」という思いがあります。

特に、今年はアサヒビールの創業120年、創立60年という節目の年を迎えています。企業として長い間存続するためのたゆまぬ努力の結果として今があるのです。これもすべて先輩たちが築いてきた財産あってのものでしょう。そこで私自身もトップとして次の世代にいったい何を伝えていけるかということを念頭におきながら、次の戦略を考えているところです。

竜馬は、自らの出身地である土佐や、薩摩、長州など藩というものが「国」そのものだった時代においても、より広い「日本」という視点を持ち、亀山社中、海援隊という貿易結社、株式会社を結成し、大きく海外に目を向けています。

なぜ、情報の乏しい時代に、若く、ろくに学問もない下級武士だった竜馬にこんなことが可能だったのか。

答えのひとつは、「行動力」にあったと思います。遠い所でも厭わず、非常な早足であちこちに出向き、随分たくさんの人に会っています。最大の出会いは幕府の軍艦奉行並の勝海舟を自宅に訪ねたことでしょう。そこで得た国際情勢や近代国家についての知識によって目を開かされるとともに、海舟からは倒幕派だがおもしろそうな男と気に入られ、そこから次の道が開けています。