――どうやって現場を納得させた?

【山本】現場の社員を研修所に夜集めて週3回くらい泊まり込みで、マスタープランの実行方法について説明した。その仕事が1番厳しく、マインドを皆で共有し実行する難しさも知った。

数字を示し説明を重ねて、こうやればうまくいく、利益につながっていくんだということを現場に本当に腹落ちさせたときから、業績が良くなっていった。目に見えるかたちでコストが下がって、利益が積み上がっていくのがわかった。

現場の社員を教育する過程で、社内のたくさんの人材を知りえたことも大きい。いまはこちらが何も言わなくても、ムダがあれば現場が自ら直してくれる。そういう文化が形成されてきている。何年も同じことを言ってきたからだ。スムーズに改革が進んでいるのを肌身で感じている。

マスタープランを考えるところまではできても、実行は難しいものだ。しかも無理やり実行させるのではなく、店長や部長、マネジャーなど現場の人たちに改革の重要性について、どこまで血を通わせられるかどうか。そのプロセスが1番重要なことだ。そのとき考えたことはいまも活きている。新百貨店モデルを目指すのも、過去の成功体験をそのまま維持していては後退するだけ。常に変革していかないとダメだという意識が、当時の仕事で身についたからだ。

――10年間社長を務めてきたが、新たな立場で何をしていくか。

【山本】これまで守りながら攻めてきたが、リーマンショック以降、利益もドンと落ちた。かなり効率的な経営になったが、さらにその上をいく効率経営をしないと生き残れない。これからはグループ全体としてどう業績を上げていくか。百貨店が主軸としても、可能性のあるビジネスをもっと成長させて軌道に乗せていく。グループの営業利益500億円、ROE8%が当面の目標だ。トップがそう思わなければ実現できない。

J.フロントリテイリング社長 山本良一
1951年、神奈川県生まれ。73年明治大学商学部卒業、大丸入社。2001年百貨店業務本部営業改革推進室長、03年役員経験なしで社長就任。10年大丸松坂屋百貨店社長、13年4月よりJ.フロントリテイリング代表取締役社長。
[出身高校]横浜市立桜丘高校[長く在籍した部門]営業企画部門[座右の書]水越康介ほか『マーケティング・リフレーミング』[座右の銘]先義後利[趣味]バスケットボール観戦
(國貞文隆=構成 尾関裕士=撮影)
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