内なる壁を壊す「コンカレント」とは

日本で「縦割り組織」の弊害が指摘されて久しい。役所ばかりではなく、企業にも深く根を下ろしている。自らが持つ情報を公開しないことが、自らの地位と権限の源泉と勘違いする管理職も多い。ICTによる情報の共有化や部門間の連携強化は、そうした「内なる壁」を打ち壊す武器ともなる。
――富士通では、ICTを駆使した部門間の情報共有化や連携の体制が、できていますか?
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図2 生産プロセスのバーチャルシミュレーションで時間短縮に

【黒川】いや、道半ばです。私が社長だった2006年から07年にかけて、携帯電話の小型化を進めるために、そうした開発体制を導入しました(図表2)。狭い空間に生じる様々な問題を解決していくには、様々な分野の人がコンカレントに仕事をしていかねばならないからです。ただ、富士通ではCAD1つをとっても、機械的なメカニズム、電気系統、熱処理など、それぞれ別々で、縦割り世界になっています。従って、各要素をマッチングさせる「すり合わせ」がいくつも必要になり、開発でも試作でもたいへんな時間がかかっていました。「市場の変化が急な時代に、これではいけない」ということで、製品のサイクルが短い携帯電話で開発期間を大幅に短縮するため、部門間に横串を通してみました。

いろいろな分野のメンバーが大部屋に集まり、日々、連携できる環境にしました。ただ、人間同士がいちいち確認していては時間がかかるので、08年ごろに共有のデータシステムを構築し、相互にコンピューターの中で「すり合わせ」をする仕組みにしました。その結果、開発期間が4年間でほぼ半分になりました。いま、携帯電話の新モデルの開発は八カ月程度で、利用者のニーズの変化についていけます。いまでは携帯電話以外にも、いくつか大部屋ができています。

――大部屋に集まった各メンバーの出身母体のほうにも、そういう変化は浸透していますか。

【黒川】いや、そこは、遅れています。大部屋でワイワイガヤガヤやっていい形が生まれても、その結果を実際に各部門で手がけるときに、母体の優先事項によって変えられてしまうことがあります。そこで、開発が終わるまでメンバーは母体に戻さないことになりました。そういう意味でも、横串を通して大部屋を指揮する人間には、強い主導権が必要です。先ほど触れた日米中の比較で言えば、米国では生産現場のブルーカラーと設計・開発のホワイトカラーは、仕事をするフロアも違うほど、互いに遠い存在です。また、中国は、権限を持つリーダーに全員が従う文化で、これも横串は通しにくい。

でも、日本は「同じ釜の飯を食う同士」という意識がひじょうに強く、やりやすい。分野間の連携をICTで徹底的にサポートすることで、競争力をかなり強くできるはずで、世界中で同時に生産・販売を始める「垂直立ち上げ」も容易になります。