「中興の祖」がまだ出現していない

しかし今の中国政府は、それができない。チベットやウィグルなどに人為的に漢人を送り込みすぎているので、締め付けを緩めて連邦化したときには、彼らの多くは、そのまま現地に居残ることになり、旧ソ連の崩壊後、各国で在留ロシア人がいじめられているのと同じ状況になることを中国政府は恐れている。

そもそも世界でも最も赤裸々な資本主義国となった中国は、すでに農村をベースとしたコミューン建設を教義とした毛沢東時代の共産主義とはかけ離れている。それでも版図を縮小することは、中国共産党の生みの親である毛沢東を否定することになる、とその末裔たちは考えているのだろう。というより、建国以来の枠組みを変えていくほどの「中興の祖」がまだ中国には出現していない、と言ったほうが適切かもしれない。

一方、日本との関係に関しては、毛沢東率いる中国共産党が抗日戦争に勝利して、返す刀で蒋介石の国民政府を追い出した、ということになっている。中国における共産党一党独裁は「抗日戦争で勝利し、独立を勝ち取り、人民を解放した」ことで正当化される、と説明されている。それが中国という国家が今日少数民族の問題や日本との関係でぎこちないくらいに頑なになる理由だ。なぜなら、その大義名分こそ、歴史を直視しない作り話だからだ。日本に対しては、植民地支配で中国人民を苦しめた許しがたい「軍事独裁国家」という戦前・戦中のイメージづくりに今日でも汲々としている。従って、今日の指導者である共産主義の使徒たちは、毛沢東の版図に一筆も手を加えられない。