タクシーで通い慣れた行き先へ向かうとき、運転手が、乗客に黙って遠回りをし、いつもより大幅に高い運賃を請求された。疑問に思ったが、求めに応じて高額の運賃を支払ってしまった。後になって、タクシー会社を相手に差額を返すよう求めることはできるだろうか。

タクシー代金裁判で何を立証すべきか?

タクシー代金裁判で何を立証すべきか?

ある人がタクシーに乗り、運転手に行き先を告げた瞬間、両者の間には「旅客運送契約」という法律関係が成立する。運転手は、最も早く到着するであろう合理的なルートを選び、安全に乗客を運ぶ債務を負う。そして、乗客は降車の際に運賃を支払う債務を負うことになる。

交通上の法律問題に精通する加茂隆康弁護士によると、冒頭のケースの場合は、乗客に断りもなく、合理的なルートを選択することを怠ったタクシー運転手に「債務不履行」があるという。

そして、目的地まで遠回りしたルートでの運賃と、合理的なルートでの運賃との差額が「損害」になるので、乗客はタクシー会社に損害賠償を求めることができると説明する。

また、合理的なルートを通ったが、到着地が客の指定した目的地と違っていた場合も、到着地から本来の目的地までの交通費が「損害」となりうるという。たとえば、「新宿」の駅前を目的地と指定したのに、運転手の誤解などで「新宿三丁目」駅前で降ろされた場合は、新宿三丁目から本来の目的地である新宿まで行くのにかかった交通費を請求できる。

さらに、タクシー会社に賠償を求めるにあたっては、民法上の不法行為のケースより、立証のうえで乗客に有利な扱いになると加茂弁護士は指摘している。

当事者の一方が、過失で相手に損害を与えてしまった場合、そのことを理由に、他の一方が加害者に損害賠償を求めるなら、一般論では、損害賠償を請求する側が、相手の「注意義務違反(過失)」や「違法性」を証明しなければならない。