日付ナシの「取材」メモ

<strong>市原義文</strong>●1967年生まれ。90年、学習院大学経済学部卒、日産自動車入社。2000年、外資系コンサルティング会社へ。04年、ローソン入社。「5年も同じ会社にいるつもりはなかったが、毎日仕事が楽しい」。
市原義文●1967年生まれ。90年、学習院大学経済学部卒、日産自動車入社。2000年、外資系コンサルティング会社へ。04年、ローソン入社。「5年も同じ会社にいるつもりはなかったが、毎日仕事が楽しい」。

表紙のいたみ具合で、この小さなメモ帳がいかに使い込まれているかわかった。

「夏場、Yシャツの胸ポケットにずっと入れていたから汗がにじんでしまいました。思いついたアイデアをすぐにメモできる。とても便利なんですよ」

市原義文さんは、手に収まるほどのメモ帳を開いて見せた。そこには、大きさも筆圧もばらばらの文字が躍っていた。

ローソンのエンタテイメント・サービス本部本部長補佐とITステーションのディレクター補佐、そして、新規ビジネスのプロジェクトリーダーを兼任する市原さんは、用途が異なる3冊の手帳をいつも持ち歩いている。予定表、A5判のノート、そして、A7判のメモ帳である。

「手帳の使い方が変わったのは、いくつかのプロジェクトを兼務してから」

日産自動車、外資系コンサルティング会社で主にIT部門を歩んだ市原さんがローソンに入社したのは、5年前。ローソンでは、デジタルサイネージ(電子看板システム)やポイントシステムの開発などに携わった。いずれも部署をまたぐ、ゼロからのプロジェクトだった。

こうした性格の異なる業務を並行して進めるには、頭のスイッチをうまく切り替える必要がある。以前はそれができず、わけがわからなくなっていたと振り返る。

兼務多数のため神出鬼没。3冊の手帳とノートPCを抱えて、社内を動き回っている。ときには階下のコーヒー店で企画を練ることも。「場所を変えると、発想も変わりますから」。
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兼務多数のため神出鬼没。3冊の手帳とノートPCを抱えて、社内を動き回っている。ときには階下のコーヒー店で企画を練ることも。「場所を変えると、発想も変わりますから」。

予定表とB5判のノートを使っていた市原さんが、「頭を整理するため」に小型メモ帳を持つようになって3年が経つ。

「ふとした瞬間に思いついたアイデアは、ささいなものでも書き残しています。意外なほどいま取り組んでいるビジネスと繋がってくるんです」

先日、街頭で道ゆく人々がみな下を向いているのに気がついた。サイネージの設置は、目線の高さにこだわる必要はないのでは……。メモ帳に走り書きした。その場ですぐに書くので、日付も入れないし、ページを飛ばす場合も多い。

メモ帳には、“具体的なアイデア”がたまる。けれども、それだけなら備忘録にすぎない。重要なのが朝の2時間だ。

出社は、毎朝7時。業務開始の午前9時までアイデアを記したメモ帳に目を通し、考えを整理して、その日やるべき仕事とともに大判のノートに書き出していく。これが新規プロジェクトの原点となる。プロジェクトを社長に提案する日が決まると、予定表にキーワードを書いた付箋を貼る。提案が終わっても、付箋は外さない。予定表を開けば、いつどんな提案をしたかすぐにわかるからだ。社長ならどう考えるか。前回の提案ではどんな反応があったか……。ピンクの付箋に目がとまるたびに鼓舞されるという。

当初、提案したプロジェクトが動き出しても現場を巻き込むのが大変だったが、いまは違う。市原さんは、「部署にこだわらないで動いているし、具体的な例を示し、アイデアを説明できる。提案から動き出すまでのスピードが格段にあがりました」と手応えを感じている。

兼務が増え、行動範囲が広がるほど、市原さんがメモ帳に走り書きした“気づき”が活きるのだ。