しかし岩崎氏は「納め損は現在でもある問題」だという。「60歳支給の今でも、59歳で亡くなった人は20歳から59歳まで納めてきた年金保険料がムダになる。遺族がいない人は遺族年金もない」。しかし長く生きることを「リスク」という視点で見ると景色が変わる。

「不幸にして早く亡くなった人は『長生きリスク』を負わなくて済んだのだから、リスクを負っている人にお金を渡すのだと生命保険的に捉えるのです。長生きをリスクというなんて、と不愉快に感じる人もいるでしょうが、普通の人が100歳、110歳になっても働いて収入を得ることは無理。かといって110歳までの生活費を貯めることも現実的ではありません。その備えという意味で年金は必要な制度だし、納め損という考え方はなじまない」(岩崎氏)

経済評論家の山崎元氏も同意見だ。「年金は損だから保険料を納めないほうがいいというヒステリックな意見には賛成できません。給付額の削減や、給付年齢の引き上げは覚悟しなければなりませんが、老後の収入のかなりの部分を年金が占める状況は、国が存続する限り変わらないでしょう。保険料を払っていなければ障害をもっても障害年金を受け取れません。また基礎年金の財源は2分の1が税金なのだから、自分の税金が他人のために使われていることになってしまう。損得を冷静に考えるべきです」。

インフィニティ代表
岩崎日出俊

1953年生まれ。日本興業銀行、J.P. モルガンなどを経て現職。著書に『定年後 年金前』など。

学習院大学経済学部教授
鈴木 亘

1970年生まれ。専門は社会保障論、医療経済学、福祉経済学。著書に『社会保障の「不都合な真実」』。

経済評論家
山崎 元

1958年生まれ。12回の転職を経て現職。専門は資産運用。著書に『お金とつきあう7つの原則』など。
(向井 渉=撮影)
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