2002年5月14日、鈴木宗男事件に連座して、私は東京地方検察庁特別捜査部に逮捕された。東京拘置所の独房に512日間勾留された。勾留期間中は接見等禁止措置がつけられ、弁護人以外との面会、文通、さらに新聞購読が認められなかった。独房生活は、決して愉快ではなかったが、耐えられないほど苦しい経験ではなかった。


拘置所内の佐藤氏に差し入れられた聖書(写真左)。検閲済みの判子付き「閲読許可証」のラベルが貼られている(写真右)。ラベルには独房のある建物の区分(シホ舎=新北舎2階)、氏名、閲読期限が記されている。独房での書籍の閲読期間は原則として1カ月だが、聖書は宗教書のため無期限。

獄中では、新約聖書「使徒言行録」と旧約聖書「ヨブ記」を繰り返し読んだ。この地上で起きる苦難は、すべて神によって与えられた試練である。この苦難を耐えれば、神は必ず人間に救いの手を差し伸べてくれるというのが預言者ヨブの確信だった。「人生は短く苦しみは絶えない」(14章1節)というヨブの言葉を噛みしめながら、学生時代の神学教師や友人たちから学んだことや、崩壊期のソ連で政争に巻き込まれたときの政治家の立ち居振る舞いについて、記憶を整理し、私自身の生き方について考えた。他人を恨んだり、運命を嘆いたりするのではなく、この試練を正面から受け止め、イエス・キリストに倣って生きようと思った。

人生や仕事で深刻な悩みに直面したときに、虚心坦懐に聖書を読めば、何か心を打つ表現がある。聖書の言葉はキリスト教徒だけでなく、他宗教の信者や宗教を信じていない人にも救いをもたらす根源的な力を備えている。

作家、元外務省主任分析官 佐藤 優
1960年、東京都生まれ。85年、同志社大学大学院神学研究科修了、外務省入省。在露日本国大使館等を経て95年、国際情報局分析第一課。2002年、背任及び偽計業務妨害容疑で逮捕。09年、執行猶予付き有罪確定、外務省を失職。著書に『国家の罠』『私のマルクス』『はじめての宗教論(右・左巻)』『新約聖書(I・II)』(文春新書、解説のみ)ほか多数。
(撮影=小原孝博)
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