(3)予想とリスク選好の違いを利用する

紛争のよくある原因のひとつは、予想の違いから生まれる。そして、将来を予想するという点では、紛争当事者たちは理想的とは言いがたい行動をとる傾向がある。

そんな状態でも紛争から価値を創造するひとつの手段がある。それは、将来の展開に応じて異なる支払い義務を定めることで、当事者が自分の予想に「賭ける」ことができるようにする契約構成、つまり付随契約(contingent agreements)だ。

高級ショッピングモールを建設するつもりで広大な土地を買ったデベロッパーの例を考えてみよう。地元住民は開発によって自分たちの住宅の価格が下がることを恐れている。デベロッパーは、高級モールの近くの住宅価格は逆に平均以上の速さで上がることを示すデータを挙げて、そうはならないと主張している。

地元自治会は、必要なゾーニング適用除外措置を与える前提条件として、デベロッパーが隣接する住宅の所有者に補償金を支払うことを要求している。デベロッパーはこの要求を「ゆすり」とみなし、自治会を提訴することを検討している。

デベロッパーが自分の予測に大いに自信を持っていて、なおかつ住宅所有者たちが住宅価格の下落を本当に心配しているのであれば、両者は彼ら全員を保護する条件付き契約(付随契約)を構築することができる。この契約には、モール完成の5年後に両者が納得する不動産専門家を雇って、地元の住宅価格を周辺地域の住宅価格と比較して査定してもらうことを定めてもよい。モールに隣接した物件の価格が本当に周辺地域の物件ほど上昇していない場合には、デベロッパーは地元住民に補償金を支払うが、デベロッパーの予想が正しかった場合には、支払い義務から解放されることになる。

(4)多様な時間枠を認める契約

紛争当事者は、自分たちの紛争に関連して別々の時間枠を思い描いていることが多い。時間枠の違いに気づくことが解決策につながることがある。

あるウェブデザイン会社が小規模ながら成長している企業のためにデザインとホスティングの仕事を行ったとしよう。ウェブデザイン会社は、クライアントがサイトの構築・メンテナンスの間に行ったいくつかの要求を挙げて、かなりの追加料金を請求した。クライアントは、それらの変更は追加料金に値するほどのものではなかったと主張し、追加料金の支払いを拒んでいる。

両者は、考えられる時間枠の違いを探ることによって、双方が利益を得ることに気づく可能性がある。クライアント企業は比較的厳しいキャッシュフロー状況に直面してはいないだろうか。もしそうなら、総額について言い争うよりも時間をかけて支払う仕組みをつくることを検討したほうがよいだろう。

一方で、ウェブデザイン会社は、クライアントを長期にわたって保持できるかどうか心配してはいないだろうか。場合によってはこの会社は、月ごとの支払いの一部を継続的なリテイナー・フィーとみなすことを検討すべきだろう。そうすれば相手は継続的なサービスを得ることになり、ウェブデザイン会社は一回限りの顧客を継続的な収入をもたらす顧客に変えることになる。