整流は、セーレンの理想の姿と現実とのギャップを少しずつ埋めながら、会社の流れを整えていくもの。また5ゲン主義は、各担当者が仕事をする「現場」、その現場で起きている事実を指す「現実」、そして顧客に提供するモノやサービスといった「現物」が、1人ひとり自らの役割責任を果たす「原理」、社内ルールや社会的規範を守る「原則」に沿って動くことで、初めて付加価値を生み出せるようになるという考え方のことである。

2005年のカネボウの繊維事業買収などで、セーレンは繊維総合メーカーへ大きな変貌をとげた。これまでの道のりを振り返りながら、川田は「人間万事塞翁が馬」という言葉を何度も口にした。

「幸せと思われたことが不幸に結びついたり、不幸と思われていたことが幸せに結びついたり、どちらに転ぶかわからない。しかし、目標や夢を持ち続けることで、人間は後者を導けるようになる」

とはいえ、川田のような強靭な精神力を持つ人間はそう多くない。途方に暮れていると、川田は「汗を流して一生懸命にやれば、自ずと悟りの道に至る『流汗悟道』と、先に苦労した者は後で安楽になれる『先憂後楽』の禅の教えを大切にしたらいい」とアドバイスしてくれた。その2つが川田にとってのゴールデン・ルールなのだろう。

(文中敬称略)

セーレン社長 川田達男
1940年、福井県生まれ。62年明治大学経営学部卒、同年福井精練加工(現セーレン)入社。87年社長就任。2003年よりCEO兼務。05年に買収したカネボウの繊維部門をわずか2年で黒字化させる。
(尾崎三朗=撮影)
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