今でも週に2回、ステーキを食べます

聖路加国際病院 
理事長・名誉院長 
日野原重明氏

私は今、10年手帳をつけています。100歳を迎えた2010年から2020年、109歳までの手帳です。百賀を過ぎ、長寿をただ喜ぶのではなく、100歳が新たなスタートだと考えているのです。

多くの方は0歳が人生のスタートと考えます。40歳、50歳になれば、人生も折り返し地点だなと思うでしょう。あるいは、60歳の定年を人生の再スタートとする方も多いのではないでしょうか。

けれど、それは間違いです。その人が50歳であれば、そこからがサッカーでいう後半戦の始まりです。野球は7回からが勝負といいますが、ならば70歳のスタートがあっていい。人生の前半生は助走にすぎません。後半生をどう生きるかが大切なのです。

私は今でも週に2回、好物のステーキを食べていますが、「人生の最後に何を食べるか」など、とても今からは考えられません。

10年手帳には、たとえば皇后陛下の誕生パーティーの日程を2020年まで書き込んでいます。私は50年以上も正田家の主治医を務めていましたから、そのご縁で毎年招かれるのですが、これは外すことのできない記念日です。ほかにも大切な会合や講演会などの予定を書き込んでいますが、実はこの手帳、私にとっては単なる予定表ではないのです。自身が果たすべき使命、いわば神との約束ごとを記したものなのです。

米国の大統領は就任するとき、聖書に手を置いて誓いますね。それと同じです。アポイントメントなら、都合が悪ければ変えられますが、コミットメントは変えられません。神に誓う気持ちで、私はこの手帳に自らの「成すべきこと」を書いているのです。

人生の後半をどう生きるかを考えるようになったのは、1970年の「よど号事件」がきっかけでした。当時、私は58歳、赤軍派にハイジャックされた日航機よど号に乗っていました。よど号がソウルの金浦国際空港に着陸し、長い死の恐怖にさらされました。幸い解放され、無事に日本に戻れるとわかったとき、私は考えました。