こういったケースはワンマンな上司や、過去に現場で実績を上げてきた上司に多い。部下に考えさせるのは時間がかかるので、それが待てず、つい答えを出してしまうのだ。

「部下が何でもお伺いを立ててくるので、忙しくて困る」と嘆きながらも、頼りにされているのをよしとしてはいないだろうか。こういう上司は、「どうせ部下には判断できない」「オレが考えたほうが早いし正確だ」と、何でも自分が判断してしまい、それが部下の成長を阻害していることに気付いていない。

上司の現場経験や知識が通用する間はいいが、市場環境は大きく変化している。いずれ経験や知識が古くなり、通用しなくなるときがきたとき、会社のマイナスになる判断をするようになってしまう。すぐに答えを与えることは部下のためにも、会社のためにもならないのだ。

部下のほうが現場の状況は詳しく把握している。上司がうまくガイドすれば、自分で考えて判断することができるようになるはずだ。答えを伝えるのではなく、判断の仕方を教えよう。

「どうしましょうか」と聞いてきたら、まずは「君はどうしたらいいと思う? いくつか案を考えてきてもらえると、オレは助かるなぁ」などと促そう。

そのうえで、出てきた案を部下と一緒に1つひとつ見ていこう。それぞれの案について、メリット、デメリットを確認し、「それを採用したら何かまずいことは起こらないか」と質問を投げかけてガイドし、部下がベストの結論に到達するよう導くのだ。

「あの上司のところに相談に行くと、必ずいくつかの案と、その根拠を聞かれる」ということになれば、部下は自ずと自分で考えるようになる。複数の案を持ってくるだけでなく、それぞれを分析して、最善と思われる案を提案してくるようになるだろう。

ビジネスの現場では、状況はめまぐるしく変化しており、即断即決を求められることが多いので、上司の側にも余裕がないのは理解できる。

しかしだからこそ、今の上司には我慢が必要だ。「どうしたらいいと思う?」と問いかけるのは最初はイライラするかもしれないが、長い目で見ると部下の成長を促し、チーム全体の力を伸ばす。そして現場の状況に即した精度の高い判断をすることができるようになる。

ホウレンソウは、部下にその励行を呼びかければよいというものではない。生かすも殺すも、上司次第なのだ。

(大井明子=構成)
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