秋葉原で働いていた感性を活かす

オリジナルドール「MAFUYU」のパッケージと「チビズキン」(オビツ製作所にて。撮影=筆者)

オビツ製作所の職人技が込められたドール素体「オビツボディ」は、マニアの心をつかんでヒットしました。ただし、素体はそれだけでは完結しません。自分で作りあげた頭部をつけてみたり、別のドールの頭部を素体にすげ替えたりすることもあれば、素体の一部を取り替えて体型を変えてみたり、手作り衣装を着せてみたりすることもあります。こうして、自分の好みに合わせたオリジナルのドールを作り上げるマニアもいます。マニアの感性を持ち合わせてないと、なかなかできない楽しみ方です。

一方で、パッケージ化された完成品を求めるお客さんもいます。オビツ製作所の「オビツドールシリーズ」は、「オビツボディ」を使った完成品のドールです。メイク済みの頭部、ウィッグ、ドールアイ、そしてドレスといった一式が付属しています。それをプロデュースするのは、企画開発室を率いる鈴木さん。鈴木さんは、もともと秋葉原のフィギュア(ドールと異なり、関節が動かない人形)専門店で働いていました。ご自身もかなりのドールマニアで、今でも秋葉原やドールイベントに頻繁に足を運び、マニアたちの意見を広い集め、商品開発に活かしているのです。

鈴木さんのこだわりとして、「欲しいドールは、必ず手に入る」状態を実現したかったといいます。鈴木さん自身、気に入ったドールがあっても、抽選販売で結局は購入できずに悔しい思いをしたそうです。オビツ製作所のオリジナルドールは、期間を決めて注文を受け付け、一定数に達すると受注分だけ生産するシステムを採っています。これは、在庫を抱えないという生産者側のメリットもありながら、気に入ったドールはなんとしてでも入手したいというマニアへの配慮でもあるのです。

鈴木さんがプロデュースするオリジナルドールは人気があり、ドールマニアの間での評価は高い。もともとものづくりの職人集団であったオビツ製作所が、オリジナル商品「オビツボディ」からさらに付加価値を生み出せたのは、理解し難い異質なマニアの才能を信じ、マニアの感性を商品開発に取り入れることができたからなのです。