医療ツーリズムを育て定着させていくためには、いま一度、医療の国際化とは何か、現場の視点で捉え直すことが必要だろう。この点について癌研究会のインターナショナルセンターの金起鵬センター長は、「いまのような検診ツアーは持続可能なのかはなはだ疑問だ。われわれの課題は、患者から求められる高度医療をどこまで提供できるかにある。そのためには、国際化に向けた医療サービスの標準化が何よりも重要だ」と語る。

癌研究会の有明病院は、1908年に創設された財団法人癌研究会が運営するがん専門病院で、05年に現在の東京・臨海副都心に移転。外国人患者治療のパイオニアとして年間200人以上の外来や入院を受け入れている。そして、移転の年に掲げられた「がん医療において世界に誇れる病院になる」というビジョンの実現に向け、外国人患者受け入れ窓口として創設されたのが同センターだ。

もともと日本の医療現場は医師や看護師の教育も含め、外国人受け入れを想定していない。患者は国籍によって医療のバックグラウンドやコミュニケーションのスタイルが異なる。米国人患者は日本人なら我慢する少々の痛みでもすぐに訴えてくる。それで看護師が振り回されてしまうことも日常茶飯事だった。そこで、外国人患者の受け入れから送り出しまでの対応を標準化するべく、日々課題の洗い出しや改善を行っている。

いま、海外の医療機関や患者本人からメールで月平均10件ほどの問い合わせが入る。そこから実際の外国人患者の受け入れに当たっては、次のようなプロセスを経ていくことになる。

(1)患者情報を現地の医療機関から送ってもらい、医学的に受け入れ可能か判断。
(2)治療方針に沿って見積金額を提示。財政上のリスクを回避するため、全額前納。また日本語、英語以外は24時間体制の通訳を患者負担で用意してもらう。
(3)右記のことを含めすべてを患者が同意したうえで、治療スケジュールを調整。

とくに重要なのが経済的な担保。これがないと、途中で治療ストップという悲惨な事態をも招きかねない。また、患者本人の英会話のレベルもある程度の水準が求められる。現状ではスペイン語やロシア語、韓国語、中国語は対応できないため、医療通訳の用意が必要となる。

いま同センターでは、看護師をはじめ院内の医療スタッフ対象の英会話講座を開催している。その理由について金センター長は「注射をするとき、患者に『チクッとしますよ』と英語でさっといえるかどうかで、患者との信頼関係が構築できるかどうかが変わる。それができれば患者は安心して治療に専念し、医療スタッフも振り回されるようなことが少なくなる」という。

※すべて雑誌掲載当時

(坂井 和、本田 匡=撮影)