また、大震災を機に、新しい縁を結ぶ動きも出始めている。災害に遭遇すると、人間社会はいちど全体の秩序が崩れて無縁化する。その中から新しい人間のつながりが生まれてくるのだということをノンフィクション作家レベッカ・ソルニットの『災害ユートピア』という本は説いているが、震災の被災地や東京で、国や自治体といった既存の秩序には頼らず個人ベースで助け合って生き抜いていこうという動きが出ているのだ。

大津波に襲われた土地はいまも瓦礫に埋まり、福島の原発事故の行方はなお予断を許さない。災厄は現在進行形で続いている。だが、ひとついえることは、何があろうと人は自分のできることをするしかないということだ。今後、原発がひどい爆発を起こすかもしれないし、巨大な余震が発生する恐れもある。誰のせいであるかは関係なく、起きることは起きるのだ。私たちはそのことを受け止めたうえで、自分なりの努力によって生き延びていくしかないだろう。

そのときに、東北人が東北を捨てるとか、東京人が東京から逃げ出すということをしてはならないし、それはできない。まずはその場で生き抜いていく、ということを決めるのだ。そうすれば、心が大きく揺れることはないだろう。

無縁死の問題も同じである。誰に看取られようと、死ぬときは誰でも1人である。そう思えば、1人の部屋で死ぬことも怖くはない。

いまの日本は無縁社会かもしれないし、大震災の余波で新しい災厄に見舞われる恐れもある。しかし、無縁は自由の同義語であり、住み慣れた自分の土地はある意味で自分の一部である。いざというときは自分1人の部屋で死ぬことや、自分の土地で辛い目にあうことを覚悟し受け入れてしまえば、思い切りよく明日を生きていくことができるだろう。世の成り行きに不安を覚えている人たちに、そのことを伝えたいと思うのだ。

宗教学者・文筆家 島田裕巳
1953年生まれ。東京大学文学部卒業、東京大学大学院人文科学研究科博士課程修了。放送教育開発センター助教授、日本女子大学教授、東京大学先端科学技術研究センター特任研究員、同客員研究員を歴任。『世界の宗教がざっくりわかる』『創価学会』(新潮新書)、『人はひとりで死ぬ』(NHK出版新書)、『日本の10大新宗教』『葬式は、要らない』(幻冬舎新書)など著書多数。
(構成=面澤淳市(プレジデント編集部) 撮影=小倉和徳)
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